妖しな嫁入り
妖屋敷に住まう
 かつて私が生まれ暮らしていた望月家の屋敷は広かった。

 長い石畳の階段を上り、赤い鳥居を潜り、母屋を迂回してようやく離れへとたどり着く。門から最も遠く離れた奥の奥、それが私にあてがわれた部屋。
 小さな部屋だけが私の世界。屋敷内を歩き回ることは許されておらず、妖退治で疲れた体を引きずって部屋に戻るのにはいつも苦労していた。
 それだけ広い敷地に広大な屋敷であると認知していたけれど、この妖屋敷も相当らしい。なにしろまだ目的地とやらに到着していないのだから。

 廊下を歩けば嫌でも外の様子が目に入る。
 名も知らない花がたくさん咲いていた。着には青々とした葉が生い茂り、手入れが行き届いていることは無知な私でもわかる。何故かといえば、これまで私が眺めていた光景と違うからだ。
 私の部屋から見えていた生え放題とは明らかに異なる雰囲気で、調和が取れているように思う。私を怖れてなのか、それが言いつけだったのか、知ったことではないけれど……私の部屋の周りは別世界のように荒れていた。

 途中、何度か人とすれ違った。その度に彼らは丁寧に頭を下げていく。
 私に対するものではないだろう。となれば前を歩く藤代を敬ってのことである。彼は屋敷内でそれなりの地位に就いているのかもしれない。
 そんな彼に命令していた妖狐は屋敷の主――という認識でいいのだろうか?

 妖狐が治める妖屋敷……

 緊張に喉が鳴る。けっして気を抜いてはいけないと戒めた。
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