妖しな嫁入り
悔し紛れに呟けば、朧の答えは既に決まっているらしい。そういう憎らしいような、余裕に満ちた顔をしていた。
まあ、そうでなければ己の命を奪う危険性のある女を侍らせて出歩いたりしないだろう。けれど相変わらずその先を告げないまま。これは答えるつもりがないというよりも、楽しみは後に取っておけという空気を感じた。
やがて連れてこられた場所は――
なんてことはない、私はこの場所を知っていた。これでも夜限定で活動範囲は広い。妖を探して遠出することも多かった。ここはその範囲で訪れたことがある場所だ。ということは、ここまで来てしまえば望月家への道筋もわかる。だが、まだその時ではないと隣の存在が証明していた。
訪れたことがあるとはいえ、昼間はまるで別のように感じる。人がいて、当たり前だが店が開いている。広い道では地面に布を敷き、机を並べ、さらに雨を避けるように布を張った店舗も並ぶ。
「気に入ったか?」
目を奪われていた私を引き戻したのはもちろん朧だ。
「何を?」
「この町がだ」
「特に思い入れは感じない。でも少し、懐かしかった。あれは確か、五十番台の妖を狩った時のことで――」
「その回想は長いのか? 珍しく饒舌になってくれたかと思えば……狩りの話とは色気がないな」
「気に入らなければ他の女を連れてくればいい。私には、他に話せるようなことがない」
気がきくような話題も思いつかない。私がしてきたのは戦うことだけ。そんな女に、この妖は何を求めるつもりか。
「気に入らないと言ったつもりはない。だが、誤解させたなら悪かった」
「簡単に謝るなんて不気味。何を企んでいるの」
「酷い言われようだな。単純なことだ。せっかく二人で出掛けているのに喧嘩越しではつまらないだろう。さあ――」
朧が足を止めるよう促した店。そこは布で雨風をしのぐような簡易な造りではなく、立派な瓦屋根の店構えだ。
「邪魔をする」
のれんを潜れば私たちに気付いた年配の男が振り向き、にこにこと人の良い笑みを浮かべてくれた。おそらく店主なのだろう。
「いらっしゃいませ。何かお探しでしょうか?」
「彼女に贈りたい。簪を見せてもらおう」
どうやらこの店では簪を売っているらしい。
「かしこまりました。なるほど、素敵なお連れ様ですね。さて、何が似合いますやら」
まあ、そうでなければ己の命を奪う危険性のある女を侍らせて出歩いたりしないだろう。けれど相変わらずその先を告げないまま。これは答えるつもりがないというよりも、楽しみは後に取っておけという空気を感じた。
やがて連れてこられた場所は――
なんてことはない、私はこの場所を知っていた。これでも夜限定で活動範囲は広い。妖を探して遠出することも多かった。ここはその範囲で訪れたことがある場所だ。ということは、ここまで来てしまえば望月家への道筋もわかる。だが、まだその時ではないと隣の存在が証明していた。
訪れたことがあるとはいえ、昼間はまるで別のように感じる。人がいて、当たり前だが店が開いている。広い道では地面に布を敷き、机を並べ、さらに雨を避けるように布を張った店舗も並ぶ。
「気に入ったか?」
目を奪われていた私を引き戻したのはもちろん朧だ。
「何を?」
「この町がだ」
「特に思い入れは感じない。でも少し、懐かしかった。あれは確か、五十番台の妖を狩った時のことで――」
「その回想は長いのか? 珍しく饒舌になってくれたかと思えば……狩りの話とは色気がないな」
「気に入らなければ他の女を連れてくればいい。私には、他に話せるようなことがない」
気がきくような話題も思いつかない。私がしてきたのは戦うことだけ。そんな女に、この妖は何を求めるつもりか。
「気に入らないと言ったつもりはない。だが、誤解させたなら悪かった」
「簡単に謝るなんて不気味。何を企んでいるの」
「酷い言われようだな。単純なことだ。せっかく二人で出掛けているのに喧嘩越しではつまらないだろう。さあ――」
朧が足を止めるよう促した店。そこは布で雨風をしのぐような簡易な造りではなく、立派な瓦屋根の店構えだ。
「邪魔をする」
のれんを潜れば私たちに気付いた年配の男が振り向き、にこにこと人の良い笑みを浮かべてくれた。おそらく店主なのだろう。
「いらっしゃいませ。何かお探しでしょうか?」
「彼女に贈りたい。簪を見せてもらおう」
どうやらこの店では簪を売っているらしい。
「かしこまりました。なるほど、素敵なお連れ様ですね。さて、何が似合いますやら」