妖しな嫁入り
そんなことを続けていては無駄に体力を消耗するだけ。それは相手も同じ考えなのか、二人がかりで攻撃を始めた。注意を怠っていなかった私は難なく朧からの太刀をかわす。
「朧様、しくじっていますよ」
私を仕留め損ねた朧の顔をした妖へ、女が言う。
「悪かった、意外とすばしこい。だが最初に仕損じたのはそっちだろう」
朧と同じ声、そして女は妖を『朧』と呼ぶ。けれど私はそんな言葉に惑わされたりしない。これが朧でないことははっきりしていた。
「お前は朧じゃない」
「何を言うかと思えば」
この姿を疑うのかと妖が言う。
「朧は私に危害を加えたりしない。約束した」
「戯れに決まっているだろう」
言葉で惑わし、私の動揺を誘っている。
「違う」
毅然とした態度で言い返すことが出来た。
どんなに私が攻撃しても、朧はいつも避けるだけ。いくら刃を向けられようと私に手を上げたことは一度もない。それが悔しくて必死に闘いをしかけるのに、これまた逃げられてばかり。
「朧は、約束を破らない」
「約束? とんだ信頼関係ですね。どうやら計画を変更しなくては」
それを貸してと、女は言った。指差された先には偽りの朧が持つ刀。指示されるがまま簡単に刀を手放したことから上下関係は明白だ。
私はそれの餌食になるつもりはない。どうするつもりかと首を傾げたのも束の間、女の手から刀が離れる。
「なっ――」
私は無傷。でも部屋に響いた鈍い音は、まるで何かが倒れるような……
信じられない気持ちで振り返った私の目に映るのは胸を貫かれた妖。そこにはもう朧の面影はなく、人の形をしていた頭部は獣の姿に戻っている。刺したのは女、だが想像していなかったのだろう。驚愕の表情を浮かべていた。
「お前、仲間を……」
目の前の光景が信じられないのは私一人。おそらく同じ気持だった相手はもう死んでしまった。
「仲間、そう仲間ね。あなたを葬るために手を汲んではいた。でも、別にどうということはないでしょう。妖の生死なんて」
仲間が死んだのに笑っている。それどころか自分で手に掛けたというのに、驚いている私を意外そうな目で見つめていた。
「朧様、しくじっていますよ」
私を仕留め損ねた朧の顔をした妖へ、女が言う。
「悪かった、意外とすばしこい。だが最初に仕損じたのはそっちだろう」
朧と同じ声、そして女は妖を『朧』と呼ぶ。けれど私はそんな言葉に惑わされたりしない。これが朧でないことははっきりしていた。
「お前は朧じゃない」
「何を言うかと思えば」
この姿を疑うのかと妖が言う。
「朧は私に危害を加えたりしない。約束した」
「戯れに決まっているだろう」
言葉で惑わし、私の動揺を誘っている。
「違う」
毅然とした態度で言い返すことが出来た。
どんなに私が攻撃しても、朧はいつも避けるだけ。いくら刃を向けられようと私に手を上げたことは一度もない。それが悔しくて必死に闘いをしかけるのに、これまた逃げられてばかり。
「朧は、約束を破らない」
「約束? とんだ信頼関係ですね。どうやら計画を変更しなくては」
それを貸してと、女は言った。指差された先には偽りの朧が持つ刀。指示されるがまま簡単に刀を手放したことから上下関係は明白だ。
私はそれの餌食になるつもりはない。どうするつもりかと首を傾げたのも束の間、女の手から刀が離れる。
「なっ――」
私は無傷。でも部屋に響いた鈍い音は、まるで何かが倒れるような……
信じられない気持ちで振り返った私の目に映るのは胸を貫かれた妖。そこにはもう朧の面影はなく、人の形をしていた頭部は獣の姿に戻っている。刺したのは女、だが想像していなかったのだろう。驚愕の表情を浮かべていた。
「お前、仲間を……」
目の前の光景が信じられないのは私一人。おそらく同じ気持だった相手はもう死んでしまった。
「仲間、そう仲間ね。あなたを葬るために手を汲んではいた。でも、別にどうということはないでしょう。妖の生死なんて」
仲間が死んだのに笑っている。それどころか自分で手に掛けたというのに、驚いている私を意外そうな目で見つめていた。