二度目の結婚は、溺愛から始まる


「いらっしゃいま……椿ちゃんっ!?」


グラスを磨いていた征二さんは、一瞬驚いた顔をしたが、すぐに満面の笑みを向けてくれた。


「久しぶりだね? いつ戻ったの?」

「ご無沙汰しています。先週、帰国したんです」

「そっか。おかえり。コーヒーでいいかな? それとも、お酒かな?」

「どちらも飲みたいんですが……食事をしたいので、食前酒がいいです。特にこれと言って飲みたいものもないので、征二さんのおまかせでお願いします」

「了解」


征二さんは、すぐに背後の棚からいくつかのボトルとグラスを用意する。
ひとつの無駄もない洗練された動きに、惚れ惚れした。


(やっぱり……凄い)


昼も夜も、いろんな形のくつろぎを提供できる征二さんは、わたしの理想だった。

ジーノの店では、一応アルコールも出していたけれど、需要は少なく、バーテンダーとしての経験が積めないことが、残念だった。


「いまの椿ちゃんの雰囲気に合わせてみた」


そう言って征二さんが差し出したのは、赤い色のカクテル。
グラスの縁にはイチゴがいる。


「とても女性らしくて、魅力的になった。恋をしている証拠だね」

「恋なんて……」


(いまの蓮への気持ちは……恋、ではないわよね? でも、それなら何?)


征二さんは、適当な答えでごまかせる相手ではない。
結局、何も言えないまま細身のグラスを手にする。


「いただきます」


カクテルはほんのり甘く、イチゴの味がした。


「美味しいです」

「よかった。食事はどうする? 簡単なものしかないけれど。パスタかサンドイッチか、パンケーキか」

「久しぶりに、征二さんのパンケーキが食べたいです!」


征二さんが作るパンケーキは、スイーツ系ではなくお食事系で、しっかりお腹を満たしてくれる。


「サーモンと生ハム、どっちがいい?」

「生ハムで!」

「かしこまりました」

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