二度目の結婚は、溺愛から始まる


(幅広く活躍? 幅広くナンパのまちがいじゃないの?)


こんな男を紹介しようとするなんて、イヤガラセかと緑川くんを横目でひと睨みし、『ナギさん』に微笑みかける。


「わたし、初対面の男性が言うことは九割方お世辞だと思っていますので」

「ナギさん、早く手を離したほうがいいよ。椿先輩にベタベタしてると、九重の会長とか社長とか部長とかに、社会的に抹殺される」


蒼の物騒な忠告に、ナギさんはヒュッと口笛を吹く。


「九重って……あの『KOKONOE』? もしかして、本物のお嬢さま?」


わたしの全身を上から下まで観察した彼の顔に浮かんだ感想は、「嘘だろ」。昔、さんざん目にした反応だ。


「そうは見えないと言いたいんでしょうけれど、九重の会長は祖父で、取締役社長は兄です」

「正真正銘のお嬢さまなら、ぜひお近づきになりたいね」

「光栄です……けれど、手を離してください」

「え? 何か言った? 聞こえないなぁ」

「バーベキューグリルで、こんがり焼いてさしあげましょうか?」

「わかった、わかった。でも、俺……ツンデレも嫌いじゃないよ?」


ようやく解放された手を眺め、何となくジーンズのお尻で拭う。


「ひっでぇなぁ……」

「椿は、ナギさんみたいな人に慣れてないんです。押すのは逆効果ですよ」


ナンパ男は、愛華の言葉に首を捻る。


「逆効果? いままで、攻めて落とせなかった相手はいないんだけどなぁ?」

(それは自慢? サイテーね)


ここまで軽薄な人間には、お目にかかったことがない。
いったいどんな思考回路をしているのだろう。


「いい加減にしてください、ナギさん。真面目な話で呼んだんですから。椿先輩のデザインをCGにしてほしいんですよ」


緑川くんがようやく事情を説明してくれたが、『デザイン』と聞いた途端、ナンパ男の顔つきが変わった。


「俺が?」

「椿先輩が、蒼の結婚式の会場デザインを担当してるんですけど、PCが手元になくて困ってるんです」

「デザインするのにPCがないだって? 論外だろ。用意しろよ」


先ほどまでとは打って変わって、冷ややかなまなざしを向けられ、持ち前の負けず嫌いが頭をもたげる。


「PCがなくたって、紙とペンさえあればデザインできるわ」

「だけど、結局はCGにしたいんだろ?」

「その方がクライアントには、わかりやすいからよ!」

「俺なら、自分のデザインは最後まで自分で面倒を見る。中途半端な仕事をするヤツは、作品も中途半端だ。そんな人間がプロだなんて、おこがましい」

「なっ……! わ、わたしは、プロのデザイナーじゃないわっ! プロのバリスタよっ!」

「は? バリスタ? それなのに、会場デザインをするって? 結婚式の参列者は、業界でもトップクラスの人間ばかりだぞ。蒼たちに恥をかかせる気か?」

「ナギさんっ! 椿先輩には、俺が頼んだんだよ!」


さすがに、暴言が過ぎると思ったのか、蒼が慌てて口を挟む。


「蒼、いくらおまえの先輩とはいえ、素人に任せるなんて……」

「先輩は、素人なんかじゃない。ナギさんだって、先輩のデザイン褒めてたじゃないかっ!」

「は? 俺が?」

「ナギさんもお気に入りのカフェ『TSUBAKI』。店舗デザインは、椿先輩だよ」

「……マジで?」


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