二度目の結婚は、溺愛から始まる


「椿、ほどほどにしなさいよ? また、蓮さんに迷惑かける気?」


愛華の言葉に、ギクリとする。

完全に酔っ払うことはできなくとも、思考を鈍らせるくらいには酔っておきたくて、ハイペースで飲んでいた。


(シラフで蓮と対峙するなんて無理。できれば、翌日何も憶えていない展開に持ち込みたい……)


そんな思惑からビールを飲み続けているのだけれど、ちっとも酔えない。


「まだまだイケるわ」

「そう言って飲み過ぎるのが、いつものパターンだったでしょう?」

「大丈夫よ! もう大人だし」

「大人は、酔った挙句にまちがい電話を架けたりしないわよ。しかも、真夜中に」

「…………」

「あんまり蓮さんに心配かけちゃダメよ? ただでさえ、椿の行動にはハラハラさせられているにちがいないんだから」

「はい……反省してます」


つい先日、蓮の息の根を止めかねないほど、心配させてしまったことを思い出し、項垂れる。

何かに夢中になったり、集中したりしていると周りが見えなくなりがちなのは、わたしの悪い癖だ。


「ところで先輩。背中の図面ケースの中に、デザイン画が入ってるんですよね? 見せてもらってもいいですか?」

「いいけど……」


乞われるまま、図面ケースを手渡した。
いそいそと中身を取り出し、胸の前で広げた緑川くんは目を輝かせる。


「すっごい、すてきですね!」

「ありがとう」

「これ、やっぱりCGにしましょうよ! パソコン買わなくても、外注すればいいんです。ちょうどそこに、適任がいますから」


緑川くんは、蔦の這う壁の前で蒼と話している人物を指さした。

ジーンズに色のあせたTシャツ。長めの髪に、無精髭。
年齢は……三十代半ばくらいだろうか。
どう見てもサラリーマンではないが、かといって夢だけを追う自称・ゲイジュツカでもないことは、手首に光る高級腕時計が物語っている。


「うちの事務所と付き合いがあるCGクリエイターなんです」

「CGクリエイター……」

「幅広く活躍していて、結構有名な人だから、名前くらいは聞いたことがあると思うんですけれど……」


アナログよりデジタル媒体が幅を利かせる世の中で、CGクリエイターの需要は多い。が、デザイナーと一緒で、作品と名前がセットで知られている人はごく一部。相当に大きな仕事で成功しなければ、表舞台に立つことは難しい。

わたしたちの視線に気づいた蒼が、彼と連れ立ってこちらへやって来る。


「何か用? 竜」

「用があるのは、蒼じゃなくてナギさんだよ」

「俺?」


緑川くんに指名された彼は、自分を指さし目を丸くした。

ワイルドな外見と高身長は威圧感たっぷりだが、豊かな表情と垂れ目がちの優しい目元でいい感じに中和されている。


「椿先輩を紹介したくて」

「なになに、こちらの美女を紹介してくれるって? どうも初めまして、ナギです」

「……どうも」


反射的に、差し出された大きな手を握ると『ナギ』と名乗った彼は、大げさに仰け反った。


「うわっ」

「ど、どうかしました?」


静電気でも走ったのかと思い、慌てて手を離そうとしたが、しっかり握られていて引き抜けない。


「ね、感じなかった?」

「はい?」

「握った瞬間、『この人だっ!』って思わなかった?」

「はあ?」

「俺、運命感じちゃった」

「…………」


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