二度目の結婚は、溺愛から始まる

「ねえ、彼女。スタイルいいねー」

「一人なの?」

「俺らと遊ばない?」


(これって……ナンパ?)


人生初のナンパに面くらう。


「あったかい場所、行こうよ」

「いいところ知ってるからさ」


返事をしないうちから腕を引っ張られ、我に返った。


「わたし、人と待ち合わせを……」


焦って周囲を見回したけれど、駅へと続く道に人影はまばら。
しかも、酔っ払いばかりだ。


「嘘はダメだよ」

「この時間になっても一人ってことは、すっぽかされたんでしょ?」

「連絡もないんじゃない?」


考えまいとしていたことをズバリと言われ、ズキンと胸が痛んだ。


「慰めてあげるからさ」

「け、結構です!」

「遠慮しないでいいって」


両脇を挟まれ、腕を取られてぐいぐいと引きずられる。


「はな、離してくださいっ!」


さすがにこれはマズイと焦り、腕を振りほどこうとするが、二対一では勝ち目がない。


「どうせ失恋決定なんだからさ。いいじゃん?」


告白もしていないけれど。
相手にもされていないけれど。

これは、やっぱり失恋なのだろうか。

思わず、泣きそうになる。


「キス、してあげようか?」

「ひっ」


ひょいと覗き込まれ、後退りした背が何かにぶつかった。


「とっとと失せろ」


「は? あんた何だよ」

「オジサンは、どっか行けって」

「強制わいせつ罪で訴えられたくなければ、消えろっ!」


ドスの効いた声は、迫力満点。
ナンパ男たちは、そそくさと立ち去った。

恐る恐る振り返れば、冷ややかなまなざしの蓮がいた。


「椿。一時間待っても来なければ、帰っていいと言ったはずだが?」


ようやく会えたことを喜んでなどいられない。
激怒している蓮に、縮み上がる。


「ご、ごめんなさい……今日は、どうしても……会いたくて」

「一時間以上は、待たないようにと言ったはずだ」

「そ、そうだけど、でも……」

「待っていたなら、なぜ連絡しない? こんな時間に外をウロウロするなんて、襲ってくれと言っているようなものだろうがっ! どこかの店に入ることくらい、考えつけなかったのか? 第一、どうして今夜じゃなきゃだめなんだ? 明日でも、明後日でも、いつでもかまわないだろう? どうせ、大した用じゃないんだから」


(大した用じゃない、って……)


蓮が言っていることは正論だ。
全面的に、自分が悪い。

でも、理由を訊きもせず、一方的に「大した用じゃない」と決めつけられたことが悔しかった。


(ひとが……どんなに会いたいと思っているか、知らないくせに)


わたしより、ずっと恋愛経験豊富な友人たちの言っていることが正しい。

脈なんか、ない。
この人が、わたしに「恋」をする可能性は、ゼロ。

諦め時があるとしたら、「いま」だ。


「いつでもって……いつ会えるのよ? 明日も明後日も、明々後日も、どうせキャンセルするくせにっ! もういい。蓮と結ぶ縁なんか、いらないっ!」


あっけに取られたように立ち尽くす蓮の胸へ紙袋を叩きつけ、身を翻した。

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