二度目の結婚は、溺愛から始まる


それからも、テイクアウトにするなら包装はどうするか、価格はワンコインで抑えられるかなど、コストについて検討しているうちに、ランチタイムとなった。


「一度、征二さんが作るのを見せてもらってもいいですか? あとは、実践で憶えます」


普段は、クールビューティーな見かけによらず天然なところがある海音さんだが、キッチンでは別人だ。

征二さんが作る姿を一度見ただけで、味付けや盛り付けを憶えてしまった。

しかも、同じテーブルのお客さまにはほぼ同時にサーブできるよう、出来上がりまで計算できるのだから、すごいとしか言いようがない。

バーテンダーのようにパフォーマンスを意識しているわけではないが、キビキビした動作は見ていて気持ちよく、鮮やかなその手並みには感動するばかりだ。

怒涛のランチタイムが過ぎたところで、交替で休憩を取り、新メニューのサンドイッチに付けるドリンクを三人で検討する。

そうこうしているうちに、もう夕方になっていた。


「そう言えば……海音ちゃん、何時まで大丈夫なの?」

「え? もうこんな時間っ!?」


海音さんは、征二さんに訊ねられて、五時を回っていることに初めて気づいたらしい。


「征二さん、今日はこれで上がらせてもらっていいですか? 来週から本格復帰するまでは、なるべく家族そろって夕食を取ることにしたので!」

「もちろんだよ」

「すみません! また明日ね、椿ちゃん! お先ですっ!」


エプロンを着けたまま、慌ただしく海音さんが店を出て行くのと入れ替わりで、男性客が入って来る。


「いらっしゃ……」


愛想よく挨拶を口にしかけ、唖然とした。


「おはようございます、征二さん」


長めの髪をビシッと整え、無精髭もきれいにそり落とし、パリッと糊がいたノーネクタイの黒シャツと折り目正しいグレーのスラックスを着込んだ人物は……

ナンパ男だった。

あまりの変わりように、一瞬、誰かわからなかった。


「……来たか」


はぁ、と溜息を吐いた征二さんにナンパ男は肩を竦める。


「来るなと言われても、来ますよ」

「そういうヤツだよ、おまえは……。とにかく、営業中はプロに徹しろ。それができなければ、追い返す」

「了解」


にやりと笑い、勝手知ったる様子でバックヤードへ一旦引っ込む。
手にしていた鞄を置いて再び戻って来るなり、ナンパ男は様々な種類の酒瓶が並ぶ棚を一瞥した。


「ドリンクは作れますけど、フードは無理なんで、勘弁してもらえますか?」

「ああ。コーヒーとフードは椿ちゃんに任せる。おまえは、アルコールだけでいい」

「手伝わせなくていいんですか?」


ちらりとこちらを確認するナンパ男に、征二さんが頷く。


「まだ見学中だから」

「なるほど。見習い以下か」

「…………」


ぽかんとしていたわたしが、むっとして睨むと「本当のことだろ」と返される。


「ナギ。いちいち挑発するんじゃない。椿ちゃん、手が空いている時は練習していいし、俺やナギを質問攻めにしてもいいからね?」


あくまでも、わたしを思い遣ってくれる征二さんの言葉で、荒れかけた気持ちも落ち着く。


「はい、ありがとうございます。征二さん」


上から目線のナンパ男は気に食わないが、仕事中は「私情」を挟まず、同僚として接することに徹しようと心に誓う。

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