二度目の結婚は、溺愛から始まる
「椿ちゃん、雪柳さんは来てくれるって?」
「はい。十五分後に」
「そう、よかった。でも、毎日続くと雪柳さんも大変だよね……」
「来週までには、帰宅手段について話し合っておきます」
「俺が一緒のときは、送ってあげられるからね?」
「ありがとうございます」
「もしくは、俺が送る」
「いいえ、結構です」
征二さんにはお礼を言い、ナンパ男の申し出は即座に断ると、むっとされた。
「純粋な厚意だぜ?」
「お気持ちだけ、ありがたくいただいておきます」
「お堅いな」
「ありがとうございます」
「褒めてねぇよ」
「わかっています。軽いのがお好みなら、別のお相手を探してください」
「ちっ……そういうところだけ、お嬢さま丸出しかよ」
「何か?」
「いいや。……ほら、見ろよ」
すっとカウンターの上を滑って手元に届いたタブレットには、美しい三次元の世界が構築されていた。
わたしのデザインを立体化しただけではない。
会場となる蒼の家の庭の写真に、重ね合わせるようにして作られていた。
「庭の位置関係は考慮せずに描いているようだったから、俺の独断と偏見で当てはめてみた。どうだ?」
違和感は、まったくなかった。
質感、色、陰影まで、細部にも一切の手抜きがない「作品」に、驚く。
わたしの頭の中を覗いたかのように、完璧だ。
「……イメージそのままだわ」
「なら、よかった。でも、これで完成じゃないだろ? 大幅に変える必要はなさそうだけどな」
「うん。変えるとすれば、アプローチ。ゲストには子どもたちもいるから、車の出入りが安全にできるように、ある程度の高さがあるグリーンカーテンで会場を仕切ってしまうつもり。あとは、ガレージをドリンクや料理を準備する場所にして……。あ、子どもたちが退屈しないように、いろんな場所に猫の置物や目印を置いて、全部見つけたらプレゼントが貰えるようにしようかな、と思ってる」
「へえ? 楽しそうだな」
「蒼にもちょっと働いてもらって、プレゼントは猫グッズにしようと思う」
「まあ、天気次第だな」
「そうね。万が一、予報が雨になったらバンケットルームを借りるしかないわね」
「急に借りられるものなのか?」
「緑川くんがいるもの。すでに何とかしていると思うわよ?」
「まあ、竜なら抜かりはないだろうな。これ、タブレットごと貸してやるよ。具体的な変更箇所について、あとで教えてくれ」
「えっ!? いいの?」
「予備に使ってるやつだから、かまわない」
「だったら、あとは自分で変更を……」