二度目の結婚は、溺愛から始まる


「椿ちゃん、雪柳さんは来てくれるって?」

「はい。十五分後に」

「そう、よかった。でも、毎日続くと雪柳さんも大変だよね……」

「来週までには、帰宅手段について話し合っておきます」

「俺が一緒のときは、送ってあげられるからね?」

「ありがとうございます」

「もしくは、俺が送る」

「いいえ、結構です」


征二さんにはお礼を言い、ナンパ男の申し出は即座に断ると、むっとされた。


「純粋な厚意だぜ?」

「お気持ちだけ、ありがたくいただいておきます」

「お堅いな」

「ありがとうございます」

「褒めてねぇよ」

「わかっています。軽いのがお好みなら、別のお相手を探してください」

「ちっ……そういうところだけ、お嬢さま丸出しかよ」

「何か?」

「いいや。……ほら、見ろよ」


すっとカウンターの上を滑って手元に届いたタブレットには、美しい三次元の世界が構築されていた。

わたしのデザインを立体化しただけではない。
会場となる蒼の家の庭の写真に、重ね合わせるようにして作られていた。


「庭の位置関係は考慮せずに描いているようだったから、俺の独断と偏見で当てはめてみた。どうだ?」


違和感は、まったくなかった。
質感、色、陰影まで、細部にも一切の手抜きがない「作品」に、驚く。

わたしの頭の中を覗いたかのように、完璧だ。


「……イメージそのままだわ」

「なら、よかった。でも、これで完成じゃないだろ? 大幅に変える必要はなさそうだけどな」

「うん。変えるとすれば、アプローチ。ゲストには子どもたちもいるから、車の出入りが安全にできるように、ある程度の高さがあるグリーンカーテンで会場を仕切ってしまうつもり。あとは、ガレージをドリンクや料理を準備する場所にして……。あ、子どもたちが退屈しないように、いろんな場所に猫の置物や目印を置いて、全部見つけたらプレゼントが貰えるようにしようかな、と思ってる」

「へえ? 楽しそうだな」

「蒼にもちょっと働いてもらって、プレゼントは猫グッズにしようと思う」

「まあ、天気次第だな」

「そうね。万が一、予報が雨になったらバンケットルームを借りるしかないわね」

「急に借りられるものなのか?」

「緑川くんがいるもの。すでに何とかしていると思うわよ?」

「まあ、竜なら抜かりはないだろうな。これ、タブレットごと貸してやるよ。具体的な変更箇所について、あとで教えてくれ」

「えっ!? いいの?」

「予備に使ってるやつだから、かまわない」

「だったら、あとは自分で変更を……」


< 204 / 334 >

この作品をシェア

pagetop