二度目の結婚は、溺愛から始まる

わたしが本心からそう思っていることを感じたのか、征二さんは優しく微笑み返してくれた。


「ところで……帰りは、雪柳さんが迎えに来るの? そうでないなら、俺が送っていくよ」


蓮には、迎えに行くのが無理な場合もあるかもしれないが、一応連絡だけはしてくれと言われていた。


「連絡してみますっ!」


慌ててバックヤードに向かおうとしたら、ちょうど出て来たナンパ男とぶつかりそうになる。


「うおっ! 椿から俺の胸に飛び込んで来てくれるなんて」


よろめいた肩を掴んで支えてくれたナンパ男は、わたしが知らなかったバーテンダーとしての顔を脱ぎ捨て、わたしが知る「ナンパ男」に戻っていた。


「と、飛び込んでないわっ!」

「照れるなって」

「照れてなんかない」

「まだ時間あるよな?」

「でも、迎えが……」

「迎えが来るまでの間だけでいい。CG見たいだろ?」


ナンパ男が手にしているのは、タブレット。
出来上がったCGを見たい気持ちは、ある。


「迎えが来るまでなら……」

「見るだけなら、五分もあれば済む」


急いでスタッフルームから鞄を取り、蓮に終わったとメッセージを送れば、すぐに返事が来た。


『迎えに行く。十五分後に』


(しばらくは、蓮に頼むとしても……ずっと、というわけにはいかない)


株主総会を控え、この先ますます彼の仕事が忙しくなることはわかっている。
無理をしてほしくなかった。

終電で帰るのが一番手っ取り早いが、夜道のひとり歩きを蓮が許すとは思えない。

かといって、自分で車を運転するわけにもいかない。

現在、わたしは「運転ができない」状態だった。

運転免許証は更新手続きをしていなかったために失効しているし、事故のフラッシュバックを恐れて、七年間、一度もハンドルを握っていない。

先のことを考えれば、免許を再取得しておくに越したことはない。
トラウマも乗り越えたい。


(これも、片づけるべき問題の一つね……)


七年前から放置している問題は、山積みだ。

とりあえず、あとで定期的に予約のできるタクシー会社を調べておこうと考えながら、カウンターでタブレットを覗き込むナンパ男と征二さんへ歩み寄る。


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