二度目の結婚は、溺愛から始まる

蓮は、じっとわたしの手元を観察していたが、差し出したカップを受け取ると窓辺のベンチを目で示した。


「絶景ね」


大きな窓からは、美しい夜景が一望できる。


「ああ。夜明けの景色もいい」


端と端。向かい合うようにして座り、美しい夜景を横目に淹れたてのコーヒーを味わう。

蓮は、ひと口飲んで目を瞠った。


「自分で淹れるのとは、香りも味もまったくちがうな。同じ豆を使っているとは思えない」

「当然」

「カフェを開けるんじゃないか?」


にやりと笑う蓮を見つめ、二つの意味を込めた言葉を紡ぐ。


「いつか、息抜きができる場所を作りたいと思ってるの。居心地がよくて、離れたくなくなるような……そんな場所があったらいいと思わない?」


しばらく窓の外見つめて考え込んでいた蓮は、柔らかな笑みを浮かべて呟く。


「そうだな……何もかも忘れてくつろげる場所を持つのも、いいものなのかもしれない」


その笑みを引き出したのが、自分が淹れた一杯のコーヒーであることが嬉しかった。

ついさっき、諦めると決めたはずなのに、性懲りもなく惹かれている自分は、「雪柳 蓮」という中毒にかかっているようだ。

そのうち、蓮なしでは生きていけない、なんてことになるかもしれない。
しかも、困ったことに、そんな自分を想像するのが少しも難しくない。


「ところで、あの紙袋には何が入ってるんだ?」


ローテーブルの上に置かれた小さな紙袋は、わたしが投げつけたプレゼントだ。


「誕生日プレゼント」


蓮は立ち上がって、ローテーブルの紙袋を取り上げた。


「これ、オーダーメイドか?」


箱を開けて、わたしを振り返る。


「オーダーメイドじゃなくて、ハンドメイドよ」

「椿が作ったのか?」


何となく恥ずかしくて、目を逸らし、窓の外を見つめる。


「そうよ。全部わたしのオリジナル。気に入らなかったら、捨てて」


誰もが手作りのものを喜ぶとは限らない。
こだわりが強い人ならば、自分の趣味ではないものを贈られても、迷惑なだけだ。


「まさか! 捨てるわけないだろう? 一生、大事にするよ」


まるでプロポーズのような言葉に、心臓がバクバクと鼓動を速める。


「別に、無理して使わなくてもいいわよ」

「まったく……素直じゃないな」

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