二度目の結婚は、溺愛から始まる

「……だいじょうぶ。いま、出る」


バスルームのドアを開けると蓮がいた。


「コーヒーと紅茶、どっちがいい?」

「コーヒー……わたしが淹れる」

「じゃあ、頼む。椿が淹れた方が美味しいだろうから」


柔らかな笑みと共に言われ、頬が熱くなるのを感じた。


(さらっとリップサービスできるのは、営業だから……?)


動揺していることを悟られないよう目を逸らし、作業に集中しているフリをする。

電気ケトルでお湯を沸かし、用意されていたドリッパーとサーバーを温めてから、フィルターをセットした。

蓮が戸棚から出したガラス容器の中には、浅煎り――シナモンローストのコーヒー豆が入っている。

夜中に飲むのはどうかと思うけれど、好みが第一だ。

わたしがシンプルな作りの電動ミルに二杯分をセットしている間に、蓮が白地のマグカップを二つ用意する。

ペアには見えないが、違うとも言い切れないデザイン。

つい、ここにはいない「誰か」を探そうとしてしまう自分に嫌気がさして、いっそ訊いてしまおうと思い立った。


「料理は、しないの?」

「しない。接待で外食になることが多いし、一人分を作るのは面倒だ」

「……作ってくれる人は?」

「いない」

「どれくらいの間?」

「一年以上は、経つな」


何でもない風を装って、挽いた豆の状態を確かめながら訊ねる。


「長かったの?」

「いままで付き合った中では、最長だった」

「……何年?」

「二年だ」


二年付き合った相手を忘れるのに、一年という長さが十分なのかどうかわからない。付き合いの深さや別れの理由にもよるだろう。


「どうして……別れたの?」


はぐらかされるかもしれないと思ったけれど、蓮は意外にもきちんと答えてくれた。


「仕事を優先しすぎたせいだ。何も言わないから、むこうもそれでいいと思っていると勘違いしていた。寂しかったと言われた時には、もう別の男のものになっていた」


自嘲の笑みを浮かべる横顔に滲むのは、後悔なのか、未練なのか。
恋愛経験のないわたしには、わからない。


(その人のこと……まだ好きなの?)


一番訊きたいことは、喉の奥に留まったまま、声にならなかった。

カップにお湯を注いで温めてから、ドリッパーをカップに載せ、挽いた豆を入れて、ゆっくり丁寧にお湯を注ぐ。

立ちのぼるコーヒーの香りが、辛い思い出話に強張った空気を和らげて、心地よい沈黙に変えてくれる。


「どうぞ」

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