二度目の結婚は、溺愛から始まる
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快晴。気温は二十四、五度。
時折、爽やかな潮風が吹く。
暑くもなく寒くもなく、海辺をのんびり散歩するにはちょうどいい。
蓮が、わたしと梛のデートの行先に選んだのは、ショッピングモールや水遊びのできる広場、整備されたビーチなどが複合的に集められた海浜公園だった。
目に映る景色は、六年の間親しんできた海辺の街とはまったくちがうけれど、潮の香りと波の音、水平線に気持ちも弾む。
これで、並んで歩いているのが梛ではなく蓮だったなら言うことなしなのに……残念だ。
「椿のことだから、てっきり食い倒れコースかと思っていたのに、アウトドア好きとは意外だな」
デートではあっても、甘い雰囲気になどなりそうもない相手は、一気にわたしを不機嫌にさせる天才だ。
「……てっきりって、どういう意味よ?」
「ん? 趣味は食べることと飲むことかと思っていた」
「失礼ね! それ以外にも…………」
ある、と言おうとして首を捻る。
コーヒーやお酒を飲むのはもちろん好きだけれど、趣味というよりは仕事。
食べることも好きだけれど、やっぱりこちらも趣味というより仕事に近い。
となると……。
(わたし……趣味がない)
蓮をワーカホリックで無趣味だなんて言えた身ではないことに、いまごろ気づいた。
「趣味が仕事なんだろ?」
「……みたい。そういう梛は?」
「ガキの頃は、バスケに夢中だったけどな。働き出してからは、趣味に割く時間も金もなかったな」
「いまも?」
「いまは金も時間もあるが、体力がねーな」
「つまり、オヤジってことね」
ここぞとばかりに言い返してやると、変化球で返された。
「アイツだって、十分オッサンだろ。俺より年上なんだし」
「蓮は、オッサンじゃないわっ!」
「三十五過ぎてりゃ、オッサンだろ」
「ひとの魅力を決めるのは、年齢じゃないものっ!」
「まあ、建前はそうだけどな。女はとりあえず若けりゃモテる。男はオッサンになったら、金と地位がなけりゃモテない。例外はあるだろうが、一般的な傾向だ」
「そ、そうだとしても……モテたからって、幸せになれるとは限らないでしょ? 好きな人が、自分を好きになってくれなければ、いくらモテたって意味はないじゃないの……」
「おいおい……。まさか、運命の相手とじゃなきゃ、付き合いたくないとでも思ってるんじゃねーだろうな? おまえ、いくつだよ? 見込みのない相手に縋るより、さっさと次に行くほうが効率がいいだろ」
「効率って……」
「人の気持ちなんて、簡単に変わるんだよ。なんとも思っていないヤツでも、少し優しくされれば気持ちが傾くし、性格が合わなくても身体の相性が良いとわかれば、付き合ったりもする。運命の出会いだの、赤い糸で結ばれてるだの言って結婚しても、あっさり離婚する」
「…………」
「変わらない関係なんかねぇんだよ」