二度目の結婚は、溺愛から始まる


陽光を反射し、きらきら輝く海に目をやる梛の横顔から、心の内は窺えない。


「変わるのが、悪いこととは限らないでしょう?」

「それが成長を意味する場合に限るな」

「だったら……昔のままの関係から変われないってことは、成長していないってことよね?」

「説教かよ?」

「そうじゃなくて……」


行く手には、このデートの最終目的地に定めたガラス張りのカフェテラスが見える。
そこに辿り着くまでの間に、梛には素直な気持ちになってほしかった。


「わたし……蓮と離婚してから……蓮にもう一度会うのがずっと怖かったの。蓮に会えば、きっとまた好きになるって心のどこかでわかっていたから」

「…………」


梛は、口を挟むことなく黙っているが、無視されているとは思わなかった。


「蓮と出会ったのは、わたしが『CAFE SAGE』でアルバイトをしていた時なの。だから、征二さんはわたしと蓮のことを何かと心配してくれるのよ。わたし、あらゆる手を使って一生懸命蓮を口説いて、デートにこぎつけて、付き合ってくれることになって……。蓮にプロポーズされた時は、嬉しくて、何も考えずに結婚した。でも……ずっと不安だった」

「頭硬そうなアイツが、軽い気持ちでプロポーズはしねぇだろ」

「うん。それは、わかってたわ。ただ……わたしは蓮より五つも年下で、子どもで……蓮の元カノみたいな大人の女性じゃなかったから。自分に自信がなくて、蓮はわたしのことを大事にしてくれていたのに、どこかで信じ切れなかったの。そんな気持ちがずっと心の底にあって、バカなこと……取り返しのつかないことをしてしまった」

「……取り返しのつかないこと?」

「蓮と元カノの関係を疑って、二人の行動を確かめようとして……車で事故を起こしたの」

「それが……離婚の原因か?」

「事故のせい、というよりも…………流産したの」

「…………」


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