二度目の結婚は、溺愛から始まる
「ほら、順番が来たぞ」
蓮に促され、店員に厳選したフレーバーを伝える。
ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、ティラミス、チョコレート、抹茶、ヨーグルト。
本当はもっと頼みたいところだが、我慢した。
コーンに盛り付けられた色鮮やかなジェラートを手にし、満面の笑みで振り返ると蓮が笑いを噛み殺している。
「……なによ」
「いや。そんなにジェラート好きとは知らなかった」
「前はそれほどでもなかったけれど、むこうではしょっちゅう食べてたし。こんな風に、海辺で食べるのがお気に入りだったの」
ほどよい甘さのジェラートに、手が止まらない。
浜辺へと続く階段に腰を下ろし、蓮と二人で、お互いが手にしたジェラートを突き合う。
「山より海が好きなのか?」
「どっちも好きだけれど、六年も海辺で暮らしていたから、潮の匂いとか風とかを感じるとリラックスできるわね。蓮も、海が好きなの?」
「椿が好きなら」
さらりと言われ、冷たいジェラートを食べているのに頬が熱くなる。
「わたしじゃなくて……」
「椿がいる場所なら、どこでも好きになれる」
「…………」
恥ずかしさを冷ますように夢中でジェラートを平らげて、コーンももれなく食べつくす。
蓮は、スプーンとコーンを包んでいた紙を捨てに行くついでに、スタンドで売っていたというコーヒーを買って来た。
香りと味はごく普通。取り立てて特徴があるわけではなかったが、海を眺めながら飲むと美味しく感じる。
穏やかで心地よい時間を大事な人と過ごす。
それを「幸せ」と言うのだろうと思った時、蓮が呟いた。
「椿が傍にいてくれれば、どこにいようと幸せだ」
「わ、たし……」
昨日、梛との結婚を望む彼女の事情を聞いた時から我慢していた涙が、堰を切ってあふれ出した。
辛いのも、苦しいのも、彼女と梛であって、自分ではない。
彼らがこの先背負う悲しみや苦しみを代わりに背負うことなんかできないくせに、首を突っ込んでお節介を焼き、偉そうなことを梛に言う資格なんてない。
だから、彼らの苦しみをどうすることもできない自分が泣くのはちがうと思っていた。
どうしようもない運命に泣きたいのは、わたしではない。
それでも、やっぱり胸が痛い。