二度目の結婚は、溺愛から始まる
しばらく立ち尽くしていた梛は、よろめくように歩き出し、ガラス張りのカフェの扉を押し開いた。
まっすぐに、脇目も振らず彼女のもとへ歩み寄る姿を見届けて、ほっと息を吐いた時、左右にぬっと壁が現れた。
「とりあえず、会わせることはできたみたいだな」
「おまえにしては、上出来だ」
「蓮…柾……二人とも、何もしていないくせに、偉そうに言わないで」
「俺は、見えないところで動いていたんだっ!」
「デートスポットに疎い椿の代わりに、いい場所を探してやっただろう?」
「とりあえず、第一段階はクリアだな」
「すんなりアイツが婚姻届にサインするとは思えないが?」
「ゴネるようなら、強硬手段を取るだけだ。おまえたちも、さっさとケリをつけろよ?」
柾は、「ハナ」が散歩に行くのを待っていると言ってさっさと立ち去り、残されたわたしと蓮は顔を見合わせた。
「このまま帰るか? それとも……」
「……散歩したい。ジェラートも食べたい」
わたしが、カフェの向こうに見えるジェラート屋の看板を指さすと蓮は首を傾げた。
「本場のジェラートじゃなくてもいいのか?」
「美味しければ何でもいいの!」
どちらともなく手を繋ぎ、歩き出す。
カモメの鳴き声に、時折混じる子どもたちの歓声。
のんびりと浜辺や芝生に座る人や釣りを楽しむ人の姿。
滑るように海面を走る船は防波堤を超え、大きな橋の下を潜り、大海原へ進んで行く。
平和な休日の風景に差す翳は、見当たらない。
梛と彼女が、いまごろどんな話をしているのかは、わからない。
ただ、ふたりで幸せになれる選択をしてほしいと思う。
浜辺へ下りる階段の傍にあるジェラート屋は人気店らしく、ちょっとした列ができていた。
シングル、ダブル、トリプルと選べるようで、豊富なフレーバーの種類には目移りしてしまう。
「蓮も食べるわよね?」
「んー、あまりそそられないが……」
甘いものがさほど好きではない蓮は、難しい顔で考え込んでいる。
「二人でトリプルを選べば、六種類の味が楽しめるんだけど……」
「それは、暗にトリプルを頼めということか?」
「イヤなら、無理にとは言わないけれど……」
蓮は、渋々諦めようとしたわたしを見て、くすりと笑った。
「俺はどれでもいいから、椿が好きな味を六種類頼めばいい」
「いいの?」
「ああ。俺はどうせ持つだけで、椿が全部食べるんだろ」
「…………」