二度目の結婚は、溺愛から始まる
「わざわざ、お礼なんていいのに……」
「お礼は口実で、先輩と仲良くなりたいだけだよ」
「え?」
蒼は、「紅は照れ屋だからね」と言って、くすりと笑った。
「紅、あんまり同性の友だち作らないんだけど、先輩って『女』って感じじゃないからね」
「それって……女らしくないってこと?」
「ちがうよ! 男だろうと女だろうと、態度が変わらない人ってこと。大学時代、椿マジックて言われてたの知らないの? 毎回、合コンにすっぴんジーンズというやる気のない恰好で参加して、彼氏はできないけれど友だちはたくさんできる。催眠術でも使ってんじゃないかって言われてたよ」
そんなアダ名をつけられていたとは、初耳。
しかも、後輩にまで知られているなんて、先輩の威厳も何もあったものじゃない。
「催眠術は……ないでしょ」
「うん。でも、もしかしたら先輩が『合コン』の意味を知らないんじゃないかって、密かに疑ってたけど」
「知ってたわよ! それくらい。いつもすっぴんジーンズだったのは、頭数を合わせるために、急に呼ばれることがほとんどだったからで……」
確かに、『合コン』に着飾って参加したことはなかった。
でもそれは、毎回『数合わせ』にどうしてもと頼み込まれ、飲み放題・食べ放題目当てに参加していたからだ。
「まあ、先輩の元夫があの人だって知ってからは、合コンでやる気見せなかったのは、めちゃくちゃ理想高かったせいなんだって納得したけどね」
「べ、べつに、理想が高いわけじゃ……」
誤解を正そうとしたが、逆に問い詰められた。
「どの口がそんなこと言うの? 両親とも弁護士。海外の超有名大学出身で、MBAも持っている。『KOKONOE』の会長や社長と仲が良くて、ゆくゆくは役員になるだろう出世株。ヤリ手だけれど社内外での悪評なし。高身長でイケメン。面倒見もよくて、コミュ力高し。ギャンブル癖なし。モテるけれど、女遊びはしない。これだけ揃ってる人材、その辺に転がってると思う? ねえ、先輩?」
「……思いません」
「もちろん、あの人……雪柳ぶちょーと上手くいってるんだよね?」
「い、一応は」
具体的にどんな状況が「上手くいっている」と定義されるのかわからないが、仲違いしているわけではない。
しかし、蒼はそんなわたしの曖昧な答えでは、納得しなかった。
唇を尖らせ、甘い顔立ちを甘辛いくらいの表情にして、先輩であるわたしに命令した。
「一応って、なに? あのさぁ、椿先輩。紅の前で、あの人のこと絶対に言わないでよねっ!? 紅が、あの人のこと考えるなんて、たとえ一分でもイヤだから!」
(結局は、そこに行きつくわけね……)
生意気な後輩に、腹は立たなかった。
むしろ、そこまで「溺愛」を隠そうともしない態度に、尊敬すらしてしまう。
「わかったわよ。蓮のことは、口にしない」
「紅が訊いても、余計なこと言わないでよね?」
「……善処します」