二度目の結婚は、溺愛から始まる


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「忙しいのに、わざわざ来てくれてありがとう。椿さん」

「気にしないで。ちょうど休みだったし。こんにちは? 紫ちゃん」


玄関で出迎えてくれた紅さんは、腕に紫ちゃんを抱いていた。
ぷくぷくした手が伸び、覗き込んだわたしの髪を鷲掴みにする。


「あ、ちょっと、紫っ!」

「んんっ!?」

「こら、やめなさい、紫っ!」

「だ、大丈夫……だけど、どうかしたの? 紫ちゃん」


紫ちゃんは髪を手放すと、今度はわたしの胸元に手を伸ばし、Tシャツを握りしめる。


「……雪柳ぶちょーの匂いでもするんじゃないの」


蒼が仏頂面で紫ちゃんの行動を推測し、紅さんも「そうかもしれない」と同意した。


「柔軟剤の匂いとか、一緒?」

「あ、うん。それは一緒かも……」


蓮のものもわたしのものも、一緒に洗濯している。

紫ちゃんが手を離してくれないので、紅さんから抱きとって、リビングへ移動する。


「ご、ごめんなさい、椿さん」

「気にしないで。友人の子育てをずっと手伝ってたから、慣れてるし。今日は、わたしと遊ぶ日だもんねー? 紫ちゃん」


ごきげんな紫ちゃんの柔らかな頬に頬ずりし、勧められるままにソファーに腰を下ろす。

ローテーブルに用意されたカップとソーサの数は、三人分ではなく五人分。
別の来客予定があるのだろうか。


「ねえ、蒼……」


怪訝に思った矢先、蒼が理由を説明してくれた。


「もしかして、椿先輩に連絡行ってない? もうすぐ一ノ瀬先輩たちも来るんだ」

「涼と愛華が?」

「フードメニューを決めるために、試食を持って来てくれるんだけど、椿先輩、ドリンクの手伝いがしたいって言ったんでしょ? ついでに話せばいいんじゃないかと思って、時間を合わせてもらったんだ」


蒼の言うように、一つでも多く経験を積みたくて、アルコールなどのドリンクを作る手伝いをしたいと涼と愛華に頼んでいた。

結婚式の会場設営にかかる時間は、前日から当日の開場するまで。
あとは、翌日に撤収作業をするだけで、式の最中、わたしはまったくのフリーだ。

ゲストとして歓談を楽しむより、最初から最後までスタッフとして関わってみたい気持ちもある。


「あ、噂をすれば来たみたい」


チャイムが鳴り、蒼が玄関へ迎えに出た。
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