二度目の結婚は、溺愛から始まる
遺産を譲り渡すために結婚するという彼女の考えには、違和感を覚えずにはいられなかった。
梛は、口が悪くとも冷たい人間ではないことくらい、わかっているはず。
あくまでも予想に過ぎないけれど、彼女は梛が引きずり続けている過去にケリをつけられるよう、戻って来たのではないかと思う。
「ねえ、梛。素直になったら?」
梛は、何も言わない。
嗚咽を堪えているから、答えられないのだ。
縋りつくようにしがみつかれても、梛に対する恐怖や警戒心は感じない。
不安定だった梛の呼吸が落ち着いたものへと変化し、重ねられた身体が重みを増す。
「……梛?」
呼びかけてみるが、返事はない。
どんなに飲んでも酔えず、眠れずにいたせいで、身体は限界だったのだろう。
(とりあえず……退いてほしいんだけど)
寝かせておいてあげたい気持ちは山々だが、蓮以外の男性に抱きしめられてうっとりする趣味はないし、居心地が悪い。
(かと言って、乱暴に押し退ければソファーから落下するだろうし……)
どうしようかと思い悩んでいたところ、ジーンズのポケットに入れていたスマホのバイブが作動した。
解放された手を無理やりねじ込んで、何とか引っ張り出して応答する。
「もしもし……」
『椿? いま、どこにいる?』
「蓮?」
『風見さんから、椿を霧島の家に向かわせたと連絡があったんだ』
「あ!」
蓮には、あとで連絡をしようと思っていたのだが、こんな展開になってしまったため、電話もメールもメッセージもできずにいた。
『霧島のところにいるのか?』
「う、うん……」
『会社も休んでいるし、連絡も着かないと聞いたが……大丈夫なのか?』
変にごまかせば、あのキス未遂の時のように、蓮を不安にさせるかもしれない。
(何かあったら、一番に頼ってほしいと言われたし…………重い)
不安げに問う蓮に、思い切って頼むことにした。
「蓮……助けて」