二度目の結婚は、溺愛から始まる


「お邪魔しています」


礼儀正しく一礼する花梨に、「ああ」と仏頂面で返事をした梛は、さすがに上半身裸ではマズイと思ったのか、クローゼットから取り出したTシャツを頭から被る。


「梛。具合がよくないと聞いたのだけれど……大丈夫なの?」

「具合がよくないのは、そっちだろ」

「わたしの体調は、落ち着いているわよ?」

「そういう問題じゃねぇ」

「心配しないで。今日明日に死ぬようなことはないから」


にっこり笑う彼女に、梛がまなじりを吊り上げた。


「死ぬとか、簡単に言うなっ!」

「……ごめんなさい」

「…………」


しんと静まり返った部屋に、薄い壁を通して隣の部屋で流れているテレビの音だけが響く。

俯く彼女。
そっぽを向いている梛。
呆れ顔で梛を見遣る蓮。
どうしたものかと首を捻るわたし。

膠着した状況を打ち破ったのは、行動力抜群のお嬢さまだった。


「あまり時間を取らせてしまっても悪いから、単刀直入に用件を言うわ。先日も伝えたけれど……」


彼女は、手にしたバッグから一枚の紙を取り出し、テーブルの上に広げた。

それは、まぎれもない「婚姻届」。
彼女が書く欄は既に埋まっている。


「梛。わたしと結婚してください」


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