二度目の結婚は、溺愛から始まる
覚悟を決めて


ランチタイムのピークを過ぎ、『CAFE SAGE』の店内にいるお客さまは食後のコーヒーを楽しむ常連の二組だけ。


「そろそろ、奥さんの顔を見に行ってもいいかな?」


征二さんは、両替の確認をし、問題なさそうだと見るとわたしと海音さんに訊ねた。


「はい、もちろん!」

「どうぞどうぞ!」


奥さんが五月に無事退院してから、征二さんは通院のために奥さんを送り迎えするときを除き、ほぼ毎日お店に出ている。

これまでとちがうのは、客足が鈍る時間帯は家に帰ること。

仕事に厳しい奥さんには「帰って来なくていい」と言われたそうだが、「お店から歩いて十分のマンションだし、何かあればすぐに駆け付けられる」と納得させたらしい。

『作ろうと思えば作れる時間を惜しみたくないだけ』

そう言う征二さんは、奥さんにベタ惚れだ。


「じゃあ、遠慮なくそうさせてもらうよ」

「キリもいいし、椿ちゃんもいまのうちに休憩入ったら?」

「そうさせてもらいます」


海音さんに勧められ、征二さんを追うようにバックヤードのスタッフルームへ入る。


「そういえば椿ちゃん、無事に免許取得できたんだよね? 雪柳さんとドライブデートしたりしないの?」


征二さんが、エプロンを外しながらわたしを振り返り、にやりと笑う。

蒼の結婚式の手伝いを終えたわたしは、征二さんがお店に出られる日数が増えたこともあり、シフトを減らして自動車教習所へ通い、再び運転免許証を手にした。

度々柾を捕まえては実践練習に励み、交通量が多い通りでも問題なく走行できるところまで、勘を取り戻している。

あとは、異母妹の「きょうかちゃん」の誕生日に、彼女とその母親である橘 百合香に会いに行くだけ。

兄の柾に弁護士を通して百合香の意向を確かめてもらい、相談した結果、夕方から始まる「誕生日会」ではなく、誕生日会の前――ランチを共にしようということになったのだが……。

< 310 / 334 >

この作品をシェア

pagetop