二度目の結婚は、溺愛から始まる
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「つ、着いた……」
蓮のマンションを出発してから三時間。
途中、休憩を挟みつつ、辿り着いたのは小ぢんまりしたアパート。
何度も叫びそうになるのを堪え、しばしば息を呑み……コンビニに立ち寄る度になぜかビールや日本酒の並ぶ棚を見つめていた蓮は、深々と安堵の溜息を吐いた。
だが、緊張を緩めたのは、一瞬。
すぐに唇を引き結び、じっとアパートを見上げる。
目的地は内緒のままだったが、標識やカーナビが示す道筋で、どこへ向かっているか感づいていただろう。
(とにかく……ここまで来たのだから、もう引き返せない)
彼女と再会した蓮は、どんな顔をし、どんな気持ちを抱くのか。
不安に思うことなどないと頭ではわかっていても、胸がざわつくのはどうしようもなかった。
それでも、彼女たちと会うことを決めたのは自分自身だ。
どんな光景を目の当たりにしようとも、受け止めるしかない。
覚悟を決めてスマホを取り出したちょうどその時、アパートの二階のドアから水色のワンピースを着た女の子が現れた。
彼女は、車中のわたしたちに気づくと「あ」の形に小さな口を開け、背後を振り返った。
続いて現れたのは、女の子とお揃いのワンピースを着た黒髪の女性。
興奮した様子の女の子をたしなめている彼女は、母親の顔をしている。
清楚な雰囲気は変わらないものの、あの頃にはなかったしなやかな強さを感じた。
「こんにちは!」
軽く手を振ると百合香は微笑んで軽く会釈し、女の子のほうは飛び跳ねるようにして階段を駆け下りて来る。
そのままの勢いでわたしの目の前まで来るとペコリと頭を下げた。
「こんにちはっ! タチバナ キョウカですっ!」
ポニーテールにした黒髪を揺らし、満面の笑みで挨拶する。
黒目がちの大きな瞳に、ピンク色の小さな唇と小さな鼻。
整った顔立ちは母親譲りのようだが、生き生きとした表情が活発な性格を物語っていた。
「こんにちは、雨宮 椿です。お誕生日おめでとう、キョウカちゃん」
「ありがとうっ!」
元気いっぱいの彼女は、車からは降りたものの、未だ茫然としている様子の蓮にターゲットを移す。
「こんにちはっ!」
「あ、ああ、こんにちは。誕生日おめでとう」
「おじさんが……いつもお誕生日にプレゼントをくれていた、ゆきやなぎさん?」
「そうだが……」
蓮の正体を知ったキョウカちゃんは目を輝かせた。
「うわぁ、ほんものだーっ! ゆきやなぎさんって、イケメンだね?」
「え? あ、ああ……どうも」
「これ、ゆきやなぎさんがくれたシュシュだよっ! メイキングトイのアクセサリーは、明日から作るの!」
蓮がキョウカちゃんにプレゼントしたのは、ポニーテールに結わえ付けられているマーガレットのモチーフが付いたレースのシュシュと、自分でアクセサリーなどを作れるメイキングトイらしかった。
「気に入ってもらえてよかった。似合ってる」
キョウカちゃんからまっすぐな好意と感謝の気持ちを向けられて、蓮の顔にも自然と笑みが浮かぶ。
「へへ……ありがと」
嬉しそうに、はにかんだ笑みを見せるキョウカちゃんは、たまらなくかわいい。
(お祖父さまや柾が溺愛するのもわかるわ……)
そうこうしている間に百合香もやって来た。
「今日は、遠いところわざわざお越しいただき、ありがとうございます」
「ありがとうございますっ!」
丁寧にお辞儀する百合香を真似て、キョウカちゃんも再び頭を下げる。
「そんなにかしこまらないでください! 今日は、お誕生日のお祝いに来たんです。難しい話をしたくて来たわけじゃないので……。ね? 蓮」
「他人行儀にされると、こっちもやりにくい。その……久しぶりで……訊くべきこと、話すべきことはいろいろあるが……元気そうだな? 橘」
言葉を選びあぐね、ありきたりな言葉を口にした蓮に、百合香はくすりと笑った。