二度目の結婚は、溺愛から始まる
『IN』とだけ書かれた小さな看板から私道に入り、砂利道を進む。
知る人ぞ知る的な場所にあるにもかかわらず、駐車場には五台の車があり、止まっている車のナンバーは、わたしたちと同じくどれも県外のものだ。
車を降り、のどかな風景の中、新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込むと朝からずっと続いていた緊張も和らぐ。
「人気のお店なので、遠方から来る人も多いみたいなんです。看板犬も有名です」
すっかり景色に同化していたので気付かなかったが、レストランの入り口には、ゴールデンレトリバーが寝そべっていた。
「ゴンッ! 久しぶりだねっ!」
きょうかちゃんの声でのそりと起き上がった看板犬は、小さな手で頭を撫でられると、ふさふさの尻尾をゆらりゆらりと大きく揺らす。
看板犬になるくらいだから、人懐こく、賢いのだろうが……
(……ゴンって、なに?)
「正式には、ゴンチャロフです」
わたしの抱く違和感に気づいたのか、百合香が補足したけれど、「ゴン」以上の違和感を覚えた。
「ゴンチャロフ……ずいぶん……硬い名前ですね?」
「ここのシェフ、ロシア料理も作るんです」
「……なるほど」
あいにくの満席だったが、わたしたちと入れ違いで帰る客がいて、ちょうどテラス席が一つ空き、さほど待たされることなくテーブルに案内された。
メニューは、子どもが好きそうな洋食と大人向けのものが混在している。
子ども連れでも、デートでも使えるお店というのが、人気がある理由の一つだと思われた。
わたしは、キョウカちゃんと一緒のハンバーグセット、蓮はイワシの香草焼き、百合香は夏野菜のキッシュを頼む。
大人三人だけの食事だったなら、ぎこちない雰囲気をなかなか払拭できなかったかもしれないが、キョウカちゃんのおしゃべりのおかげで、賑やかで楽しいランチタイムを過ごせた。
デザートの自家製アイスクリームを平らげ、コーヒーを飲み、気が付けば十四時を回っていた。
「ごめんなさい、忙しいのに無理を言って。誕生日会は十六時からですよね? 準備、間に合いますか?」
「大丈夫です。実は……キョウカの誕生日会、毎年木工所の休憩室を借りてしているんです。会場づくりとか、お料理とかは、社長と先代……社長のご両親が全部してくださっていて」
なんと、現社長の息子とキョウカちゃんは同い年らしい。
幼馴染といってもいい仲で、共通の友だちも多いことから、「うちでやればいい」と社長が言い出したのがきっかけで、毎年それが当たり前になってしまったらしい。
「それなら、アパートではなく木工所のほうに直接送ったほうがいいか?」
「そうしてもらえると助かるわ」
蓮の申し出に、百合香が頷き、木工所の住所を告げる。
レストランから数キロの距離で、五分も走れば赤い屋根をした木造の平屋建てが行く手に現れた。