二度目の結婚は、溺愛から始まる
「工場って感じがしない建物ですね?」
「十年前、いまの社長が先代から仕事を引き継いだ時、廃校になった小学校を買い取って改築し、作業所や展示場にしたんです」
立派な木の門には、「椎名木工所」の文字が刻まれている。
砂利を敷き詰めた駐車スペースには、ミニバンとステーションワゴンが止まっているが、人の姿はない。
「雰囲気があって……すてき」
「誕生会が始まるまでには時間がありますし、せっかくだから、中を見て行きませんか?」
蓮と顔を見合わせ、お互い興味津々なのを見て取り、百合香の言葉に甘えることにした。
「ぜひ見たいです。でも、まずは……」
トランクから祖父と兄、そしてわたしからのプレゼントを下ろす。
祖父からは、巨大なウサギのぬいぐるみ、兄からはドールハウス。
わたしからは、女の子に人気があるキャラクターの文房具セットと知育玩具の一種である迷路ゲームだ。
「すごーいっ! こんなにたくさん、いいの?」
キョウカちゃんは、嬉しそうにウサギのぬいぐるみを抱きしめる。
「わたしからと、ショータローおじいちゃんたちに頼まれた分よ。あとでゆっくり開けてみてね?」
「ありがとうっ! 椿ちゃん」
「すみません、気を遣わせてしまって……」
「大したものじゃないですから」
妹のかわいい笑顔が見られるなら、悩みまくって選んだ甲斐があるというものだ。
ウサギを抱きしめているというより、ウサギに襲われてるように見えなくもないキョウカちゃんの後に付いて歩き出したとき、開け放たれたままの正面玄関から大柄な男性が現れた。
三十代くらいだろうか。
Tシャツの袖から覗く、筋肉隆々の腕や厚い胸板から、デスクワークではなく、肉体労働を常にしていることがわかる。
「たっくんっ!」
「お。来るの、ずいぶん早くないか?」
「見て見てっ! これ、お誕生日のプレゼント!」
「でっかいなぁ」
たっくんと呼ばれた男性は、優しそうな笑みを浮かべて、キョウカちゃんの頭を撫でていたが、ふと顔を上げ、わたしたちに軽く会釈をした。
「椎名社長です。拓さん、こちらは……雪柳さんと雨宮さんです」
「椎名 拓です」
椎名さんは、蓮に大きな手を差し出し、ニカッと笑った。
美男ではないが、ほどよく日に焼け、健康的で生き生きとした「イイ顔」だ。
「雪柳 蓮です」
「雨宮 椿です」
「お二人に、木工所の中を案内しようかと思っているんですけれど……かまいませんか?」
「もちろんっ! 雪柳さんはヤリ手の営業マン、雨宮さんはすばらしいデザイナーだと聞いています。ぜひ、忌憚のない意見を聞かせてもらいたい」
「椎名社長の実績は、よく存じ上げています。一介のサラリーマンが意見するだなんて、おこがましい」
恐縮する蓮に、椎名さんは声を上げて笑う。
「堅いなぁ。そんなこと言わずに、じゃんじゃんダメ出ししてよ。いまのところ、取引しているわけでもないんだし」
「それはそうですが、この先どうなるかわからない。できるだけ、初対面の相手には心証を悪くしないように振る舞うのが営業のコツです」
「なるほど。それじゃ、褒めちぎってもらおうかな」
にやりと笑う椎名さんに、蓮もにやりと笑い返す。
「御社との間に、今後何かしらの取引をする可能性がまったくないと感じたら、そうさせてもらいます」