二度目の結婚は、溺愛から始まる
「腹黒いなぁ……こんな男と付き合うの、大変じゃないの? 雨宮さん」
「えっ……あの、いえ、あの、その……」
蓮と付き合っている、わけではない。
けれど、付き合っていない、というのもちがう気がする。
不意打ちにうろたえるわたしを見て、百合香がくすりと笑う。
「拓さん、軽口はそれくらいにして、お二人を中へ」
「ああ、ごめんごめん。荷物、貸して」
先にプレゼントを置くために案内された休憩室では、初老のご夫婦とキョウカちゃんと同じ年ごろの男の子が、誕生日会の準備に勤しんでいた。
先代の社長とその奥様、椎名さんの息子さんだ。
キョウカちゃんが自分も手伝うと言い出したため、わたしたち大人だけで改装された小学校を隅から隅まで見て回ることにした。
かつての職員室は事務室、教室は作品の展示室や商談室に。
用途や動線を考えて、既存の空間を上手く利用している。
体育館は作業場として使われており、木の香りが漂う空間には、制作途中の家具だけでなく、階段箪笥や茶箪笥などの和家具もあった。
「修理もしているんですか?」
「いや、あれは参考用で……」
椎名さんは、「和」を取り入れた家具を作りたくて、試行錯誤しているのだと説明してくれた。
「端的に言うと、雨宮さんのデザインみたいな家具が欲しいなぁと思って」
「わたし……?」
「仕事で向こうに行くときは、いつもカフェ『TSUBAKI』を使わせてもらってるんだ。なんか和むんだよねぇ、あそこ。それで、あんな風に『居心地のいい家具』を作れないかな、と思ってさ」
「はぁ……」
「でも、なかなか思うようなものが作れなくて。古い家具をリノベーションするんじゃ、ありきたりだし。新しくて、でも懐かしくて、使い勝手もよくて……となると、難しい。そもそも、俺は洋家具の勉強ばかりしてきたから、どうしても俺がデザインすると『和』にならなくってね」
「それなら、デザインだけでも別の人にお願いしたらどうでしょうか? 『KOKONOE』でも、お抱えのデザイナーだけじゃなく、外部のデザイナーと共同制作することもありますし」
「その手があったか……」
しばし考え込んだ椎名さんは、少し離れた場所で百合香と話していた蓮を振り返った。
「雪柳さん、ちょっといいかな?」
大事な話を遮ってしまったのでは、と心配したが、蓮は即座に営業スマイルで応える。
「商談ですか?」
「参考意見を聞きたいだけ。『KOKONOE』は、洋家具メーカーだけれど、『和』に挑戦する可能性はあると思う?」
「正直なところ、自社工場のラインに乗せるのは難しいです。が、共同制作なら、可能性はゼロではありません」
「デザイナーに心当たり、ある?」
「自社にはいませんが、フリーなら何人か」
「いま、営業にはまったく関わってないの?」
「優秀で有能な元部下を紹介することはできます」
「じゃあ……これ、渡してくれる?」
椎名さんがジーンズのポケットから無造作に取り出したのは、木製の名刺だ。
初めて目にするが、インパクトがあり、デザインもいい。
「すてきな名刺ですね」
「自社製だよ」
「家具以外のものも手がけているんですね……小物なら、直接取引することも可能かもしれません。セレクトショップ形式の店舗もありますし」
「インテリア雑貨もいくつか作ってるんだけど、見てみる?」
「ぜひ」
すっかり仕事モードに切り替わった蓮は、作業場に置かれたランプシェードや行灯、木目の美しい小物入れなどを手に取り、椎名さんを質問攻めにする。
「相変わらず、仕事人間なのね」
そんな二人の様子を見ていた百合香が、苦笑いしながら呟いた。