二度目の結婚は、溺愛から始まる
「ええ。でも、以前とちがって、週末には休みを取るようにしているみたいです」
「週末どころか、長い休みがほしいんじゃないかしら? 椿さんと一緒に過ごすために」
「どうでしょう? 結局のところ、仕事を優先しそうな気がしますけど」
「そうだとしても、それは『しかたなく』だと思うわ。わたしと付き合っていたときとは、ちがって」
「…………」
「椿さん……ありがとうございます」
「え」
突然礼を言われて戸惑うわたしをよそに、百合香は思いつめたような表情で言葉を重ねた。
「ずっと直接お礼を言いたかったんです。あの時、椿さんが親身になって動いてくれなければ、こうしてキョウカと二人、幸せに暮らすことはできなかったと思います」
「動いたのは、祖父と兄です。わたしは、何もしていない」
「いいえ。わたしが椿さんだったなら……自分の夫が、元恋人と頻繁に会っていると知っても、嫉妬や不安に左右されずに手を差し伸べるなんて、できなかったと思います」
「それは……元はと言えば、すべてわたしの父のせいですから」
「それでも、です。自分が辛い時でも、相手の気持ちを優先させる強さや優しさは、わたしにはありません」
「わたしだって、ひとりで子どもを産んで、育てようと決心する強さはありません」
わたしがしたことは、祖父と兄に父がしでかしたことを報告しただけだ。
感謝されるようなことは、何もしていない。
横に並ぶ百合香は、何かを思い切るように、小さく息を吸い込み、呟いた。
「あの時……蓮が傍にいてくれなかったら、キョウカは生まれていなかったかもしれません」