二度目の結婚は、溺愛から始まる
「…………」
「再会したとき、蓮から真剣に付き合っている恋人がいると聞いていました。そのお相手が椿さんだとは知らなかったけれど……」
凛とした横顔が歪み、その声はかすかに震えていた。
「ひとりで産んで育てると決意したはずなのに、出産が近づけば近づくほど、不安は募るばかりで……。蓮の優しさに甘えてしまった。蓮には、そんなつもりはまったくないとわかっていたけれど、一緒に過ごすうちに気持ちが傾いて、彼女ではなく、わたしを選んでくれるかもしれない……そんなことを考えていました。自分から裏切っておきながら、狡い女だったんです」
「そんな、狡いだなんて……何もかもひとりで背負わなくてはならないと思えば、誰だって不安になるでしょう?」
「それだけじゃないんです。わたし……蓮が、椿さんに離婚を言い渡されたと聞いて……彼を取り戻せると思ったんです。一瞬でも、そんなことを思うなんて……酷い女だわ」
百合香は、何と言っていいかわからず沈黙するわたしに向き直り、自嘲が入り混じっているものの、どこか晴れ晴れとした笑みを浮かべた。
「でも……椿さんが、蓮をひと言も責めず、キョウカが無事に生まれてよかったと言ったと聞いて、かなわないと思った」
「…………」
「自分が辛い時に、蓮の幸せを思って離婚を申し出るなんて……わたしには、できない。椿さんのようには、蓮を愛せない。わたしには、彼を幸せにすることはできないんだと思い知ったわ」
「そ、んなこと……」
「蓮は、何でも自分でできる人でしょう? 精神的にも強い。だから、恋人との関係も、依存し合うようなものは好まなくて。一緒にいる時はとても優しくするけれど、お互いの都合が合わなければ、無理をしてまで時間を作る人ではなかった。わたしと付き合っている時も、会えなくて寂しいと思ったことがなかったんだと思うわ。でも……椿さんとの関係は、ちがったのね」
それは疑わしい、と思ったわたしに気づいたらしく、百合香はくすりと笑った。
「F県に引っ越す前、もう二度と会わないと言う蓮に、訊いたの。椿さんとどうして結婚したのかって。蓮は、素直に答えてくれたわ。椿さんの残り香だけが漂う空間に、ひとりでいたくなかったからだって。それって、つまり……傍にいないと寂しいということでしょう?」
「…………」
「七年前、最後にあった時の蓮はボロボロだった。でも、いまの蓮は……とても幸せそうで、ホッとした。心置きなく、わたしも幸せになれる……って、わたし、相変わらず酷い女ね? 自分の幸せばかり考えてる」
溜息を吐いた百合香に、そんなことはないと首を振ってみせる。
「わたしこそ……キョウカちゃんと百合香さんに会いたかったのは、罪悪感を拭い去りたかったからです。二人が元気そうで……幸せそうで、安心しました」
蓮よりも、さらに広い背中に向ける彼女のまなざしは、信頼と愛情に満ちている。
二人きりの家族が、四人に、もしかしたらもっと増えるかもしれない未来は、そう遠くないはずだ。