二度目の結婚は、溺愛から始まる


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予定どおり、日が暮れる前に山あいにある温泉宿に辿り着いたわたしたちは、まず大浴場の温泉で一日の疲れを流し、豪華な料理を堪能した後、交替で部屋の露天風呂に入ることにした。

一緒に入りたいと言われたが、わたしが「絶対にイヤ!」と言い張ったのだ。


(ベッド上で裸で抱き合うのと、お風呂に一緒に入るのは別の話よ。無理。絶対に、無理)


先に入らせてもらい、心も身体もすっかり緩み切って、冷えたビールの入ったグラス片手にぼんやりと日本庭園を眺める。

初の長距離ドライブ、椿香ちゃんとの対面、百合香の告白。
濃すぎる一日だった。

肉体的な疲労もあるが、激しい感情の波に見舞われて、精神的に疲れていた。


(蓮にとって……今日がいい意味で『特別な日』に変わったなら、いいんだけれど……)


百合香と二人で何を話していたかは、知らない。
けれど、二人とも穏やかな表情をしていたから、大丈夫だろう。


(問題は……)


「椿」
「ひゃっ」


いきなり背後から肩を叩かれ、飛び上がった。

振り返れば、浴衣姿も凛々しい蓮がいる。


「どうした? ぼーっとして。湯あたりでもしたか?」

「う、ううん」

(やっぱり、和装が似合いすぎる……のぼせそう……)

「なら……食べすぎか?」

「ちがうわよっ!」

「じゃあ、ちょっと立て」

「はい?」

「ほら」


広縁に置かれた椅子から無理やり立たされる。

なぜ、と思っていたら、空いた椅子に座った蓮に引き寄せられ、膝の上に乗せられた。


「ち、ちょっと、蓮……」

「下弦の月か。風情があっていいな」


濃い藍色の空に浮かぶ月は冴え冴えとした光を放ち、ところどころライトアップされた庭に柔らかな光を添えている。

車の音も人の話し声もしない。
微かに聞こえるのは、風の音と虫の音だけだ。


「ひと口くれ」


蓮にねだられ、グラスを渡すと一気に半分ほど飲まれてしまう。


「そんなに恨めしそうな顔、することないだろ? 冷蔵庫にぎっしり入っているのに」

「そうだけど……」

「俺は、ビール以下か?」

「まあ……そういう時も、あるかも」


眉を引き上げた蓮は、手にしていたグラスを一気に空けた。


「蓮っ!」

「酔う前に、大事な話がある」

「大事な……話って?」


まっすぐ見上げる瞳に、目を逸らせなくなる。


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