二度目の結婚は、溺愛から始まる
*******
予定どおり、日が暮れる前に山あいにある温泉宿に辿り着いたわたしたちは、まず大浴場の温泉で一日の疲れを流し、豪華な料理を堪能した後、交替で部屋の露天風呂に入ることにした。
一緒に入りたいと言われたが、わたしが「絶対にイヤ!」と言い張ったのだ。
(ベッド上で裸で抱き合うのと、お風呂に一緒に入るのは別の話よ。無理。絶対に、無理)
先に入らせてもらい、心も身体もすっかり緩み切って、冷えたビールの入ったグラス片手にぼんやりと日本庭園を眺める。
初の長距離ドライブ、椿香ちゃんとの対面、百合香の告白。
濃すぎる一日だった。
肉体的な疲労もあるが、激しい感情の波に見舞われて、精神的に疲れていた。
(蓮にとって……今日がいい意味で『特別な日』に変わったなら、いいんだけれど……)
百合香と二人で何を話していたかは、知らない。
けれど、二人とも穏やかな表情をしていたから、大丈夫だろう。
(問題は……)
「椿」
「ひゃっ」
いきなり背後から肩を叩かれ、飛び上がった。
振り返れば、浴衣姿も凛々しい蓮がいる。
「どうした? ぼーっとして。湯あたりでもしたか?」
「う、ううん」
(やっぱり、和装が似合いすぎる……のぼせそう……)
「なら……食べすぎか?」
「ちがうわよっ!」
「じゃあ、ちょっと立て」
「はい?」
「ほら」
広縁に置かれた椅子から無理やり立たされる。
なぜ、と思っていたら、空いた椅子に座った蓮に引き寄せられ、膝の上に乗せられた。
「ち、ちょっと、蓮……」
「下弦の月か。風情があっていいな」
濃い藍色の空に浮かぶ月は冴え冴えとした光を放ち、ところどころライトアップされた庭に柔らかな光を添えている。
車の音も人の話し声もしない。
微かに聞こえるのは、風の音と虫の音だけだ。
「ひと口くれ」
蓮にねだられ、グラスを渡すと一気に半分ほど飲まれてしまう。
「そんなに恨めしそうな顔、することないだろ? 冷蔵庫にぎっしり入っているのに」
「そうだけど……」
「俺は、ビール以下か?」
「まあ……そういう時も、あるかも」
眉を引き上げた蓮は、手にしていたグラスを一気に空けた。
「蓮っ!」
「酔う前に、大事な話がある」
「大事な……話って?」
まっすぐ見上げる瞳に、目を逸らせなくなる。