二度目の結婚は、溺愛から始まる


「いまは……傍にいてほしいだけじゃなく、幸せにしてやりたいし……幸せにしてくれる唯一の存在だと思っている。椿以上に愛せる女はいないし、椿以上に俺のことを愛してくれる女もいないと思っている」

「…………」



「椿」



ただ名前を呼ばれただけなのに、涙が滲む。



「結婚してくれないか」



返事をしたいのに、開いた口から零れ落ちたのは嗚咽だ。
胸がいっぱいで、言葉にならない。

蓮は、苦笑いしながら意地悪く俯くわたしを覗き込む。


「返事は?」


余裕たっぷりの様子が憎たらしい。


「は、花束……も、ゆ、指輪もないじゃないっ」

「花束は……しかたないだろ。長時間持って歩けないし」

「今度は、ちゃんとするって言ったじゃないの……」

「指輪は用意した」

「え」

「臨機応変に対処できなければ、営業は務まらない」


そう言って、蓮は浴衣の袖から小さな青い箱を取り出した。


箱の中には、眩く輝くダイヤモンドの指輪。
そして、蓋の内側に刻まれた銀の文字は『Aoi Shirosaki』。


「蒼……?」

「白崎が黒田以外のためにデザインして作った、初めての指輪だ。嵌めてもいいか?」


わたしがコクリと頷くのを待って、指輪は蓮の手から薬指へと移る。

一度も指輪を嵌めたことのない指が窮屈だと訴えているが、嬉しい違和感だ。


「悔しいが、さすが白崎だな。よく似合う」

「……ありがとう、蓮」

「どういたしまして。惚れ直してもらえたか?」

「惚れ直すなんて、ないわ。ずっと……蓮以上のひとは、いなかった」

「あんまり褒めると、うぬぼれるぞ」

「本当のことだもの。存分にうぬぼれていいわよ」

「椿は、そんなに俺のことが好きなのか」


指でわたしの涙を拭いながら、余裕の笑みを見せる蓮に、ほんのちょっぴり意地悪の仕返しをしたくなった。


「蓮が、わたしを好きなほどじゃないけれど」

「ん? 俺も椿をうぬぼれさせることができるなんて、知らなかったな」

「ひと目会いたくて、お店に通うほど好きだったんでしょう? わたしのこと」


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