二度目の結婚は、溺愛から始まる


「椿!」


近くの駐車場に車を停め、待ち合わせ場所のレストランに入るとすでに瑠璃がいた。

余裕を持って家を出たが、初めて運転する道で迷ってしまい、五分の遅刻だ。


「ごめん、遅れて」

「大丈夫。混みそうだから、ちょっと早めに来てただけ。カフェの調子は、どう?」

「ようやく落ち着いてきたところ。集客も少しずつ伸びているし、まあまあの滑り出しかな。瑠璃は? 個展はどうだったの?」


メニューを見ながら、手短にお互いの近況報告をする。


「わたしも、まあまあよ。とりあえず、無事に旅立てそう」


今年の九月からイタリアへ留学する予定の瑠璃は、現在バカンスを満喫中だ。

先月開いた個展の評判も上々で、どの作品にも買い手がつき、留学資金を補って余りある売り上げになったと笑う。


「それで……新婚生活はどうなの?」


瑠璃の表情に、からかいの色はない。
むしろ、心配だから怒っている、そんな表情だった。

大学時代の四年を一緒に暮らした相手だ。
嘘やごまかしは通用しないし、わたしが「仕事」で思い悩むような人間ではないと知っている。

百合香の名前は伏せて、蓮と彼女の関係をありのままに話した。


「浮気じゃないけど……なんだかモヤモヤするわね」

「うん。彼女の苦境は、自分の父親のせいだし、そんな彼女を助けたいという蓮の気持ちを否定するなんて、人としてどうかと思うし……」

「でも、椿も言っていたように、彼女が引っ越して距離ができれば、変わるんじゃない? さすがに、休みを取ってまで会いに行ったりはしないでしょ。忙しい人なんだし」

「そう思いたいけど……」


ふっと短く息を吐いたとき、テーブルの横を通りかかったカップルから、強い香水の匂いが漂ってきた。


「ごめん、ちょっと……」


急に気持ち悪さが込み上げて、バッグを手に、慌てて化粧室へ駈け込む。

気持ち悪さは、匂いから離れるとすぐに治まったが、鏡に映る自分の顔色のひどさにぞっとした。


(病院、行くべきかも……)


よろよろと席へ戻ると瑠璃が心配そうに覗き込んで来る。


「大丈夫?」

「ごめんね、瑠璃……ちょっと香水の匂いがダメで」

「椿。検査した?」

「え? 何の?」


瑠璃は、きょとんとするわたしに呆れ顔だ。


「妊娠にきまってるでしょ!」

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