二度目の結婚は、溺愛から始まる


「に、妊娠って……」


慌てて周囲を見回すが、幸い、みんな他人の会話には興味がなさそうだ。


「仕事がハードなせいもあるとは思うけど、いつもより疲れやすいんじゃない?」

「それは……そうかも」

「すぐそこにドラッグストアあったから、ちょっと待ってて」


そう言うなり、瑠璃は席を立って店を出て行った。


(妊娠? まさか……)


心当たりがまったくないわけではないが、避妊はしている。


(妊娠していたら、もちろん産むつもりだけど……蓮は何て言うだろう……?)


堕ろせとは言わないだろうが、結婚式をする前に子どもを作る気はなかったはずだ。


「椿、買って来たわよ。ほら、試して来なさい」


息を切らせて戻って来た瑠璃に、小さな紙袋を渡され、驚愕する。


「え、こ、ここで?」

「どこで試そうと結果は一緒よ」

「それはそうだけど、でもっ」

「早くわかった方が、早く楽になれるでしょう?」


じっと見つめられ、渋々立ち上がる。

化粧室の個室に入り、説明書をじっくり読んで、ドキドキしながら試した結果は……。




(…………妊娠、してる)




くっきり浮かび上がるラインを見つめ、しばらく茫然としていたが、じわじわと込み上げる喜びに、じっとしていられなくなった。

急いで席へ戻るなり、瑠璃はわたしの表情から結果を読み取ったらしく「おめでとう」と笑った。


「まずは、しっかり食べてから病院へ行く。それから役所で母子手帳を貰って、妊娠と出産について詳しく書かれた本を買う。そうそう、カフェインレスのコーヒーも買わないと。それが今日の椿の予定。余計なことは考えない。わかった?」

「うん。なんだか、信じられないけど……でも、嬉しい」

「これから先の幸せを考えるのが一番大事。まずは、椿が健康的な生活しなくちゃね! わたし、九月までは暇だから、使い走りでもなんでもするわよ?」

「ありがとう、瑠璃」

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