二度目の結婚は、溺愛から始まる
コーヒーの味、店の雰囲気、サービス。
いまの『TSUBAKI』が提供しているものに違和感を覚えたのは、少なくともバリスタとしての自分が立ち止まってはいなかった証拠だ。
「それに……ずっと一緒にいたとしても、変わらずにいられたかどうかは、わからないもの」
ビジネスでもプライベートでも、変化は避けて通れない。
最高のパートナーが最悪の敵になることだってあるし、永遠の愛を誓い合っても離婚することだってある。
「そうだとしても、状況に応じて柔軟に関係性を変えれば、続けられるかもしれないだろう? どんな関係も、諦めたらそこで終わりだ。断ち切ることに迷いがあるなら、可能な限りあがくべきだ」
「……可能性がなければ?」
「見つける」
蓮の強いまなざしを受け止め切れず、お椀の中にいるアサリを見下ろした。
カフェの共同経営者を辞める決断に、迷いはなかった。
でも、蓮との関係は迷うことだらけだ。
それは、いまもわたしがきちんと向き合えていないから。
わたしと別れた後、蓮がどうしていたか知りたいのに、目を逸らし続けているからだった。
(訊く勇気がある? 何を訊いても、受け止められるの?)
もう大丈夫。過去は乗り越えた。
口ではそう言っているけれど、本当はちがう。
その証拠に、蓮と二人で過ごす日常が当たり前のように感じられる。
わたしの中で、「蓮」は過去の人になっていない。
「ごちそうさま。美味しかった。久しぶりに、まともな夕食だった」
蓮は、相当お腹が空いていたらしく、ひとつ残さずきれいに食べてくれた。
「口に合ったなら、よかったわ」
「片付けは、俺がする」
空になったお皿を下げようとするわたしを制し、蓮がキッチンに立つ。
「いいわよ。仕事で疲れているでしょう?」
「皿も洗えないほどじゃない」
「でも」
「作ってもらって、何もせずにはいられない」
「それなら……わたしが洗うから、蓮は拭いて?」
蓮は何か言いたそうだったが、わたしの提案を受け入れた。
「冷蔵庫に食材がほとんどなかったけれど、自炊はしないの?」
「外食は身体に良くないとわかっているが、一人分を作るより、コンビニ弁当か定食屋で済ませるほうが楽だから、サボリがちだ」
「一緒に食べる人は……作ってくれる人は、いなかったの?」
表情がまる見えの向かい合わせより、横並びのほうが訊きやすいこともある。
再会したときから――七年前からずっと気になっていたことを訊くなら、いまがいい機会だと思った。
「いたら、いまごろ再婚してる」
「でも、恋人くらいは……いたんでしょう?」
肯定、否定、どちらの答えを期待しているのか自分でもわからなかった。
けれど、ただの「別れた夫婦」と言えない状況で、目をつぶってはいられない。
「恋人はいなかったが……」
一瞬言い淀んだ蓮は、予想もしていなかった言葉を口にした。
「プロポーズは、したな」