二度目の結婚は、溺愛から始まる


「……相変わらず、泣く時は静かなんだな」


掠れた声で囁いた蓮は、大きな手でわたしの濡れた頬を拭い、宥めるようなキスをする。


耳から首筋へ。
こめかみから額へ。
額から鼻の先を掠めて近づく唇に、触れてしまわないよう顎を引いた。


「ダメ」


キスしたくないわけではない。
でも、キスだけでは終われないとわかっていて、「いい」とは言えない。

いまのわたしは情緒不安定で、理性が危うい。
簡単に、流されてしまう。

流されずに、これからの蓮との関係をきちんと考えたかった。
蓮と対等な「大人」として。


「……ダメ?」


蓮の声には、不満が滲み出ている。


「キス以上は、ダメ」


固い意志を持って、じっと見つめる。

先に目を逸らしたのは蓮だった。


「……わかった。キス以上のことはしない」


ようやく、なし崩しの展開から逃れられるとほっとしたのも束の間、蓮がひと言付け足した。


「今夜は」

「……今夜は?」

「一晩以上、我慢できる気がしない」

「そんなの、やってみなくちゃわからないでしょう?」

「我慢した分、次に上乗せすることになる。手加減は、できないだろうな」


(手加減できない? いままで、手加減していたってこと? そうだとすれば……)


みるみる頬が熱くなる。


「冗談だ」

「蓮っ! からかわないでっ!」

「泣いている椿より、怒っている椿のほうが好きなんだ」

「だからって……」

「でも、笑っている椿が一番好きだ」


そう告げた蓮は、真摯なまなざしでわたしを見つめて微笑んだ。



「もう一度、椿の笑顔を見られるなら、何を差し出してもいいと思っていた」





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