二度目の結婚は、溺愛から始まる
顔をしかめた蓮は、ソファーに座ってわたしを膝の上に抱き上げる。
「せめて束縛と言ってくれ」
「…………」
(蓮って……こんなに独占欲が強い人だった?)
結婚していた当時、蓮はわたしの行動を制限することも、咎めることもしなかった。わたしの体調を心配する以外、どこで誰と何をしていたか、訊かれたことなどない。
お手本のような「理解ある夫」だった。
「蓮は、『大人の付き合い』が好きなんだと思ってたわ」
「椿の邪魔をしたくなかったから、我慢していただけだ。カフェで椿が男性客に笑いかけるのを見ては、イライラしていた」
「……知らなかった」
嫉妬しているのも、我慢しているのも、自分だけだと思っていた。
「俺は……みっともないくらい、椿が好きだったんだよ。いまも……頭がおかしくなりそうなほど、椿が欲しい」
一度目は、酔っていた。
二度目は、流された。
三度目は……言い訳できない。
わたしの気持ちが揺らいでいるのを感じたのか、蓮がためらいがちに訊ねる。
「好かれているとうぬぼれはしない。だが、嫌われてはいないと思っても、いいか?」
嫌いだと言っても、説得力はまるでないことくらい、自覚している。
頷くわたしに、蓮はほっとしたように笑った。
「今度こそ、時間を掛けてゆっくり関係を深めようと思っていたはずなのに、椿が相手だと理性が働かない」
「そんな風には見えないけれど……?」
「傍にいれば触れたくなる。触れれば、キスしたくなるし、キスだけでは満足できなくなる。本当に椿がそこにいるんだと……生きているんだと、確かめずにはいられない」
「…………」
泣きたくないのに、せっかく止まった涙が再びあふれ出す。
七年前のあの日。
すぐにわたしのもとへ駆けつけられなかった蓮は、母や祖父の前で床に手をついて詫び、面会を拒否されても毎日病院に立ち寄って、母にわたしの様子を訊ねていたと聞いた。
あの時のわたしは、罪悪感でいっぱいだった。
自分の傷を癒すことしか、考えられなかった。
離婚すれば、蓮は本当に大事な人のところへ行ける。
蓮を自由にすることが、わたしにできる唯一のことだと決めつけて、逃げ出した。
言い訳も説明も聞かず、蓮の気持ちを置き去りにして――。