熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
 


「だからつくもを辞めたら、またここに来ればいいだけの話だろ?」

「うん、確かにちょう助くんの言うとおり、一生っていうのは少し大袈裟だったかも。でも……来ようと思えばいつでも来られるって思うからこそ、一生来られなかったりすることもあるんだよね」

「……は?」


 吐く息が白い。

 花は、困ったような笑みを浮かべてちょう助を見つめた。

 対してちょう助は、意味がわからないといった様子で花の顔をジッと見ている。


「ほら、行こうと思えばいつでも行けるから今はいいやとか、人ってつい、そんなふうに考えがちなんだよねぇ」


 苦笑いを溢した花は口元に手を当て、ふぅと長い息を吹きかけた。

 本社出向になった花が初めて本社で上司の杉下と会ったのは、まだ冬が始まる前だった。

 それなのに気がつけば年を越し、こうして梅の花を見られる頃を迎えているのだ。

 年の瀬が近づくたびに、「今年ももう終わりかぁ」なんてお決まりの言葉を吐き、年が明けたらまた同じように過ぎる淡々とした日々を繰り返す。

 
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