熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
「"行こうと思えばいつでも行ける"って思いながら、結局行かない場所のほうが多いんだよね」
そうしてこれまで忘れてきた場所は、一体どれだけあるだろう。
「だから、ぽん太さんがここに来る前に行ったとおりで、"思い立ったが吉日"ってすごく大切だなって思った。先延ばしにしても、成し遂げられないことのほうが圧倒的に多いもん」
ふふっと苦笑いを溢した花は、冷たい指先で頬をかいた。
「そんなわけで実は私、色々とタイミング逃しまくりで……。学生時代の行事以外で、今日みたいに観光地を巡るのは初めてなんだ」
「は……? 嘘だろ?」
「これが残念ながら嘘じゃなくって。私、子供の頃、家がすごーく貧乏でね。だから子供時代は家族で旅行なんて贅沢はできなかったし、学生時代はバイトばっかりで、友達と卒業旅行に行ったりもできないまま今に至るの」
花の告白に、ちょう助が驚いて目を見開く。
学生時代の花は社会人になって落ち着いたら、また改めて友人たちとは旅行でもなんでも行けばいいと思っていたが、結局それも叶えらないままなのだ。
「社会人になってからも、たまの休みは疲れてるから家でグダグダしちゃってさ。観光旅行なんて夢のまた夢だったんだ。だから、こういうところに来るのは初めてで、実は今、すごーくすごくワクワクしてる!」
そう言って、花は空に向かって伸びをした。
紅白に咲き誇る見事な梅は、見る人の目を梅園の奥まで誘うように延々と続いている。
「貧乏だったって……、そんなにどこにも行けないくらいだったのかよ?」
「まぁ、命の危険は感じたことはなかったから、言ってもそこまでじゃなかったのかもしれないけど。でも、ものを買ってもらうのも簡単じゃなかったから、子供の頃はよく消しゴムが小さくなるまで使ったりして、クラスメイトにはからかわれてたよ〜」
花がカラカラと笑って答えると、ちょう助は意外そうに目を見開いた。