熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
 

「ごめんなさい、湿っぽい話を聞かせてしまって。でも、何故だか今、あなたに聞いてほしくなったの。だから、聞いてくれてありがとう」


 羽化したばかりの蝶が、羽を広げるように静かに微笑む傘姫は握っていた手をゆっくりと解いた。
 

「あなたと八雲さんは人同士だもの。大丈夫、きっと上手くいくわ」


 穏やかな声に、花は頷くことも返事をすることもできなかった。

 純粋な傘姫に嘘をついていることの後ろめたさもあり、彼女の顔を真っすぐに見ることもできない。


「あなたがおすすめしてくださったとおり、お夕食前に一度、温泉で温まらせていただきますね」


 傘姫が、そう言って姿勢を正す。

 花は結局気の利いたことのひとつも言えないまま、梅の間をあとにすることになった。


「……失礼いたします。それではまた、お夕食のときにお声をかけさせていただきます」


 襖を閉じ、息を吐く。

 踵を返してひと気のない廊下を歩きながら、花はたった今傘姫に聞かされた話を、ひとり静かに考えた。

 
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