熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
「彼が常世へ旅立って、もう五十年。随分長い月日のように感じるけれど……今も私は彼と過ごした尊い日々を、つい最近のことのように思い出すことができるのよ」
窓の外ではしんしんと雨が降り続いている。
花は今更になって、どうして八雲があのとき、傘姫の事情を知ることを止めたのか気がついた。
傘姫と彼のことは、無思慮に知ろうとしていいことではなかったのだ。
当然、好奇心などという理由で踏み込んでいいことでもなかった。
あのとき花は、八雲の冷然たる物言いに腹を立てたが、八雲は単に傘姫の尊い想いを汲んだに過ぎなかったのだ。
もう五十年も、たったひとりで──。
亡き想い人に心を寄せる傘姫の心痛は、計り知れないものだろう。