熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
(な、何これ……。いつもはあんなに、無愛想で嫌味なことばかり言うくせに……)
けれど八雲は本当は心根は優しく、誠実な男なのだと、花は思わざるを得なかった。
「あの……八雲さん。八雲さんは、これまで人を好きになったことってありますか?」
気がつくと花は、八雲にそんな質問を問いかけていた。
突拍子もない花からの問いに静かに顔を上げた八雲は、何事かと目を見開いたが、すぐに「……ああ」と呟き納得したように息を吐く。
「傘姫から、話を聞いたのか?」
「はい……。付喪神である傘姫が、人に恋をしているという話と……そのお相手が、五十年前の今日亡くなったという話を、傘姫本人から聞きました」
言ってから花は、人の心に土足で踏み込んだと八雲には糾弾されるのではないかと心配もした。
けれど八雲は花を叱るようなことはせず、「そうか」と呟き、また長いまつ毛を伏せて沈黙を作った。