熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
 

「それであの、八雲さんは……」

「ない」

「え……」

「お前からの質問に答えるのなら、返事は"ない"だ。俺は──人が嫌いだからな」


 人が嫌い──。

 思いもよらない八雲の答えに、花は目を丸くして固まった。


「……先日、ぽん太から聞かされていただろう。俺は一応種別は"人"だが、僅かにあやかしの血を引いている」


 花は思わず息を呑む。以前、ぽん太たちと立ち話ししたことを、やはり八雲は聞いていたのだ。


「そのせいで子供(ガキ)の頃は、よく"妖怪の子"と言われて虐められた」

「妖怪の子……?」

「そうだ。【境界】の名がつく者は古くから、あやかしの家系だと、この地に住むものなら大体のものが知っている。だから俺がどんな不遇な目に遭おうとも、大人も見て見ぬふりで決して手を差し伸べてはくれなかった」

「そんな……」


 つまり、子供たちに虐められたり仲間はずれにされている八雲を、大人たちも助けようとはしなかったということだ。


「もちろん当時は腹も立ったし、絶望もした。だけど別に、現世でひとりでいることを寂しいとは思わなかった」

「え……」

「俺の周りにはいつも、ぽん太を始めとした付喪神たちがいたからな。付喪神たちは人とは違い、基本的に裏表がない。自分の感情に正直なんだ。だから俺にとっては人よりも、付喪神たちとの繋がりのほうが濃く特別で、何よりも心地よく、温かかった」


 人よりも付喪神たちのほうが信じられる──。

 そこまで言った八雲は徐ろに立ち上がると、近くにかけてあった手ぬぐいを花に手渡した。

 
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