熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
 

「も、申し訳ありません……っ。涙など、お見苦しいものを……っ」

「……いいえ。いいえ、傘姫様。辛いときは、泣いていいんです。辛いって口に出して言っていいんです。無理して笑う必要なんかない、気丈に振る舞う必要なんてないんです」

「……っ」


 花の言葉に、傘姫がハッとしたように息を呑む。

 花はまるで数週間前の自分を見ているようだと思い、唇を噛み締めた。

 泣きたくても意地が邪魔して泣けなくて、無理して笑って結局心は浮かばない。

 あのときの花は泣いたら負けだと、自分で自分に暗示をかけていた。

 けれど、ここへ来て──その凝り固まった意地を捨て、ようやく泣くことができたのだ。

 きっかけは、鏡子がくれた。そして八雲の腕の中で……思う存分泣かせてもらった。

 あの夜があったから、花は今、暗闇に囚われずに前を向くことができている。

 涙を流すことは弱さではない。

 涙は身体の中に溜まった苦しみや辛さを洗い流してくれるためにあるのだと、花はここへ来て、初めて知ることができたのだ。

 
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