熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
「い、一応、百回くらい玄関ホールにホコリが落ちてないか確認したんですけど、今からでも百一回目の確認をしたほうがいいでしょうか……⁉」
目を血走らせながら言う花を前に、黒桜とぽん太は呆れたように息をつくと「まぁまぁ」と口を揃える。
「花さん、大丈夫ですよ。落ち着いてください」
「そうじゃ、花。ホコリのひとつやふたつ、いざとなったらわしが自慢の尻尾でサッと払ってやるから心配無用じゃ」
黒桜とぽん太はそう言って、花を安心させるように笑みを浮かべた。
黒桜もぽん太も、当初は久々の薙光御一行の宿泊予約に対してそれなりに緊張していたようだが、自分たちよりも数倍は落ち着かない様子の花を前に、逆に冷静さを取り戻したようだった。
「そもそも薙光は、別に虎之丞のように理不尽なクレームをつけてくる奴ではないからのぅ」
「で、でも、今回は私が発案したデザートバイキングが、薙光さん率いる御一行様をおもてなしするためのキーパーソンですし──」
「──いらしたぞ」
と、不安げな花の声を、先頭に立っていた八雲が切った。
弾かれたように花とぽん太、黒桜が顔を上げれば石畳の上を静かに歩いてくる、六人の男たちが姿を見せた。
六人はそれぞれに背丈や外見も違うが、皆一様に侍のような格好をしている。
小袖に羽織袴をまとい、足元は足袋と雪駄だ。
腰に刀……は、さすがに本人たちが刀剣を器としている付喪神のため差してはいないが、静けさと威厳を併せ持つ佇まいは、器本来の鋭い切れ味を彷彿とさせた。
さすが、国宝に加えて国の重要文化財というだけの崇高さが滲み出ている。