熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
 

(ああ、でもきっと薙光さんは──)


 六人を眺めていた花は、御一行の最後方へと吸い寄せられるように目を向けた。

 前を歩く五人の背中を守るように、静寂をまといながら歩いてくる男。

 男は遠目から見ても誰より気品漂う空気を醸し出しており、浅葱色の羽織が良く似合う美しい容姿をしていた。


「本日は、極楽湯屋つくもにお越しくださいまして、ありがとうございます」


 御一行に頭を下げた八雲に習って、花も深く頭を下げる。


「──ああ、よろしく頼む」


 答えたのは、花がつい目で追ってしまっていた浅葱色の羽織の男だ。

 低く、艶のある声は所謂イケボに違いない。

 加えて、男は近くで見ても中性的な顔立ちをした美男で、長い黒髪を後頭部の高い位置でひとつに結っている様は如何にも乙女ゲームの主要キャラクターといった風貌だった。

 
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