熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
「はい、デザートバイキングです」
花の言葉に、それまで穏やかだった薙光が驚いたように目を見開く。
そうして数秒の沈黙のあと──花は部屋の空気がピリ、と張り詰めたのがわかって、思わず背筋を凍らせた。
「ふ……っ、ふはっ、ハハッ」
それまで落ち着き払っていた薙光が、唐突に喉を鳴らすと高い笑い声を上げた。
次の瞬間、射るような鋭い視線に睨まれた花は、今度こそ全身の血の気が引くような恐ろしい感覚に襲われて息を呑む。
「は……ッ、デザートバイキングとは片腹痛い。我々は長く厳しい時代を生き抜いてきた名刀よ。そんな我らをデザートバイキングなどという子供騙しでもてなすとは、つくもは我らを馬鹿にしていると思ってよいのだな?」
「い……いえ! 決して、そんなことはありません……!」
花は慌てて声を上げたが、薙光の放つ冷たい空気は変わらない。
「本当に私達は決して、薙光様たちを馬鹿にしてなど──」
「黙れ、人の娘よ! 所詮、貴様のような女には我々をもてなすなど無理な話だったのだ。八雲を呼べ、お前では話にならん。今すぐここへ八雲を呼んで、此度の無礼の謝罪をさせよ!」
「──っ、」
有無を言わさぬ薙光の言葉と雰囲気に、花は気圧され言葉を飲み込んだ。
──薙光を怒らせてしまった。
先程までの温厚な薙光は鳴りを潜めて、今はただ静かな怒りを滲ませている。