熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
「あ、あの……っ。本当に私は、決してみなさんを馬鹿にしてなんか──」
「──薙光殿の仰るとおりです。現世ではデザートバイキングは、主に女性をターゲットとしているものが多いですね」
「え……」
それでも精一杯気持ちを奮い立たせて声を上げた花の声を、淡々とした八雲の声が遮った。
思いもよらない八雲の言葉に花が目を見張ると、八雲は口角を上げてから薙光を静かに見据える。
「なんだと……? ではやはり、つくもは我々を馬鹿にしていると思って良いのだな?」
低く、地を這うような声を出した薙光を前に、花の心は震え上がった。
対して八雲は表情を崩すことなく、薙光の言葉と冷たい視線を受け止めている。
「いいえ、馬鹿にしてなどおりません。我々は本気で薙光殿に最高のおもてなしをするべく、デザートバイキングという手段を選んだのです」
一縷の迷いもない声は、薙光に言葉を挟む隙を与えなかった。
「今回のデザートバイキングでは、この日のためにつくも自慢の料理長が入念な準備を行い、腕を振るった数々の料理を楽しんでいただけるようになっております」
八雲の言葉に、薙光が僅かに目を細める。
花はその光景を、息を殺すようにして見つめていた。
「素材を活かした料理の数々。更に技巧を凝らした手の込んだ料理の数々を、一度に好きなだけ楽しめるのです。これは今まで、つくもでは一度も行ったことのない、"特別なおもてなし"であると断言できます」
──つくもで初めての、特別なおもてなし。
その言葉の響きに、薙光の表情が一瞬和らいだのを、八雲は決して見逃さなかった。