熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
「……チッ」
もちろん、短く舌を打ったのは八雲だ。
八雲は花の言葉にそれ以上何を言うでもなく踵きびすを返すと、そのまま宿の奥へと消えてしまった。
(と、とりあえず、今日はここに泊まれるってことだよね……?)
心の中でそう考えながら、花はぽん太と黒桜の顔色を伺った。
すると、パァッと表情を明るくしたふたりは、両手を広げて花と鏡子を歓迎した。
「さぁ、どうぞ! お部屋までご案内いたします!」
「食事もすぐに用意しよう。とりあえずは、温泉で冷えた身体を温めるといい」
そうして花と鏡子は、ぽん太と黒桜の案内で、建物の二階にある一室へと通された。
(今から熱い温泉だけじゃなくて、美味しいご飯にありつける……)
とにかく今は、花はそれが嬉しくてたまらない。
欲求の塊となった花にとって、ここが付喪神専用の宿だということなど、二の次、三の次になっていた。
♨ ♨ ♨
「はぁ……極楽極楽……」
部屋に通された花はすぐに、黒桜に説明を受けた大浴場へと向かった。
鏡子も一緒に行かないかと花は声を掛けたのだが、鏡子には「私はあとで入るから、ひとりでゆっくり浸かっていらっしゃい」と窘められた。