さよならが言えなくなるその前に





階段を駆け下りようとする優香。






階段の踊り場にたどり着いたとき






スルッと伸びてきた腕。






懐かしいムスクの香りに、





涙が勝手にあふれてくる。





振り返る優香。




涙で滲んだ視界に




翔輝が



両手を広げて立っていた。




   〝泣くなら、ここで泣いて〝




翔輝。



最初に出会ったときに、言ってくれたね。




何よ。



いつも突然あらわれて




黒髪だし




そんなかわいい顔しちゃって




「…っバカ」



久しぶりに会ってもこんな




可愛くないことしか言えないわたしを




優しく抱きしめる。




「…会いたかったよぉ」




優香は両手でしがみついた。




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