さよならが言えなくなるその前に



少し潤んだ瞳。



意外に強いまなざしで。



泣くどころか



その人は



「何が愛よ。」




静かに



尖ったその声は



「人を本気で



愛したこともないくせに



簡単に愛なんか



語らないでよ!」



タンカをきった。



え。



まさかのマジ切れ。



そのギャップに



なぜか、辛そうなその声色に



にらみつけるような彼女の目力に



空気がパンって、



はじけたように



止まった。



何か、



ネコみたいだな。



泣くのを我慢しているような瞳で




精一杯強がったフォルム。




ヤマネコが虚勢を張って



全身逆だててるみたいだ。



いつもと変わりない



だらけた空気の



金曜日の夕方が



街並みが



スローモーションのようで。



彼女の姿だけがハッキリと



目に映った。



映像が頭に刻まれたみたいに。



心臓がドクンってはねる。



その意地っ張りの中身はどんななのか。



泣かしてみたいような、守りたいような…




何だ。この感じ。




間をおいて



マコトが思い出したように切れる。



「あ?



なんだてめえ。



つけあがりやがって」



ドスの効いた声。



その声に、彼女は急に



我に返ったような表情になって、



「ご、ごめんなさっ」



って、慌てて立ち去る。



あ、逃げた。



「まて、てめ」



追いかけようとするマコトに



「やめとけ」



俺は言う。



「え、でも…」



そういうマコトに







「あ、やっぱり追いかけて」




俺は言った。


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