さよならが言えなくなるその前に
くしゃ。
翔輝が優香の髪をなでるように触って
「危なっかしいな」
困ったような表情で言った。
…
もう、やめてよ。
せっかく
我慢した涙が
こぼれちゃうじゃん。
ポンポン。って
優しい手が
優香をなぐさめる。
…
…
翔輝が
忘れ去られていた岸田を振り返って言う。
「どうする?
俺が連れて帰って
お仕置きしてやってもいいけど」
真顔で岸田を見下ろす翔輝の言葉に
「ひっつ」
顔面を青くして
怯えている岸田。
「…いい。」
優香はそう言った。
「そんなこと…
いいよ」
そう言って
優香は岸田の視線をとらえた。
「岸田さん…
もう、二度と来ないでください。
二度と。
私なんかより
…奥さんと向き合ってください
お願いします」
そう言って、
優香は頭を下げた。