さよならが言えなくなるその前に



ガラスが散乱する室内。



どこかへ電話していた翔輝が言った。




「行こう」



「え?どこに?



っていうか、これどうにかしないと」



呆けて部屋を眺めていた優香が



我にかえったように言う。



「知り合いの業者に頼んだ。



ガラスも入れてくれるから。」



「え、そうなの。



ありがとう。



えっと、お金はいくら…」



「いい。


割ったの俺だし」



「そんなわけには」



「いいから、準備して」



「え。準備って?


どこ行くの?」



「俺んち」



はー?



「え、何で」



「ここで寝れないだろ」



「だからって、いい。



どこか他に泊まるとこくらい」



「どこ?」



「え、友だちのうちとか。



ホテルでも



マンガ喫茶とかもあるし」




「うちにおいで」



強引な翔輝に、



もう連れ出されそう。



ちょっと、ちょっと待って。



「行くよ」




ちょっとー



聞く耳もたない翔輝。



これだけは



これだけは…!!



このまま運びだされそうな優香が叫んだ。




「な、何もしないって、



約束してくれるなら!」



これだけは譲れない!



カバンを両手に持って宣言する優香に



すごい、嫌そうな顔する翔輝。



マジで言ってんのか、みたいな。



いやいや。マジです。



「…わかった」



翔輝が、すっごいっ



しぶしぶな返事した。



< 39 / 124 >

この作品をシェア

pagetop